13話 忘れ者

 「一十百千……5000万カネーですよ! 大金ですです! 」




 ウェットパークから脱出した俺達は、近くの山で、手に入れたお金を数えてほくそ笑んでいた。




 5000万かぁ……




 「俺の元いた世界の金の価値との差が分からないから微妙だけど、これだけあれば当分のメシには困らなそうだし、お前の新しい服を買う余裕ぐらいはあるんじゃないか、なぁ、セレーネ? 」




 隣の悪役令嬢に話題を振るが、山鳥の声しか帰ってこない。




 振り向くとそこには誰もいなかった。




 「あれ、おいまさか…… 」




 「ワタシも嫌な予感するですよ…… 」




 リィリィも今まで見たことないぐらい顔面蒼白している。




 セレーネをウェットパークに忘れてきてまった……




 「ヤバいぞ、今からでも迎えに…… 」




 「無駄ですですよ。ウェットパークから脱出して早数時間、極刑が決まっているレベルの指名手配犯ならもう…… 」




 辺りに暗い雰囲気が漂う……




 クソっ、一緒に死線を乗り越えた、仲間だっ、仲間だってのに、俺の凡ミスで死なせちまうのかよっ……




 俯き、シュレイドは己の無力さに呆れながら拳を握りしめた。




 すると……




 「ヒャッハー! 山賊だぁ! 金と食料と水を出しなぁ! 」




 山賊が来た。








 「す、すいませんでしたああああああ! 」




 瞬殺だった。




 いくら山賊とはいえリィリィと俺のニ対一、魔法を使うまでもなかった。




 今、山賊を名乗るこの男は俺の目の前で土下座している。




 「はぁ、まったくこんな時に困った人に絡まれたものですね…… 」




 と、リィリィが零す。




 まったくだ。




 と、その時、シュレイドの脳裏に何かが閃く。




 「お、おい山賊! 」


 「ひゃい! 」




 「お前、ここら辺の監獄……もしくは指名手配犯が捕まったら連れてかれる場所知ってるか? 」




 「え? なんででやんす? 」




 「実は仲間が捕まって、これから助けなきゃいけないんだ。」




 「べ、別にワタシは見捨ててもいいと思うんですけどねー、セレーネさん何ができる訳でもないですし。」




 リィリィが髪を弄りながら言う。




 「嘘つけ、セレーネを忘れてきた事に気が付いた時俺より焦ってたじゃねーか。」




 「そ、そんなことねーですよー」




 あっ、そっぽ向かれちゃった。




 「で、山賊、心当たりあるか? 」




 聞くと、いつの間にかあぐらをかいていた山賊は、


 「そうでやんすねぇ……刑が軽い者ならこの辺のどっかの留置所でしょうけど、指名手配犯となると、王立刑務所辺りじゃねーでやんすかねぇ。」




 「よし、王立刑務所だな! 案内しろ! 」




 と言うと、それを聞いた山賊が顔面蒼白、




 「もしかしてお兄さん王立刑務所にカチコミかける気ですかい!? 」




 「当然だ! 」




 「嫌でやんす! まだ死にたくねぇでやんすぅ〜! 」




 「うるせぇ! ここで今俺に殺されるか、王立刑務所まで俺とリィリィを案内するかだ! 」




 選ばせてやるよ、




 「そんなドラゴンか魔王かみたいな話…… 」




 くっ、ゴネやがって……




「なら王立刑務所まで辿り着けたら報酬を出す! お前はそこで引き返せばいいだろ? 」




 まるでボストンバッグの中身を全てやるって言ってるかの様にボストンバッグを開いて見せる。


 着いたら着いたで100円ぐらい渡して帰ってもらうつもりだがな。




 こっちには時間がねーんだ、悪いがさっさと首を縦に振ってくれ。




 「わ、分かったでやんす…… 」








 天空王国、それがセレーネや俺を指名手配している国の名前だ。




 前にセレーネから聞いた話によると、『風の絶対者』なるめちゃめちゃすげー者の恩恵を以って作られた古い国で、今尚古臭い階級制度が残っているらしかった。




 「絶対者———この世界を形作ったとされている空、大地、海の三体の事ですね。シュレイドさん、絶対者に喧嘩売っちゃダメですですよ、勝てませんから。」




 「売らねーよ、そもそもそんなのホントに居んのか? 」




 「……居るは居るですよ、何処に居やがるのかは知らねーですけど。」




 静かに怒気を放つリィリィ。


 俺はそれ以上聞くのは辞めた。








 王立刑務所は天空王国の王都にあるらしい。




 指名手配クラスの大悪党と、政治でやらかしたヤツがぶち込まれる。


 セレーネは前者だ。




 ウェットパークからは馬車で2日の距離があるが、山賊のツテで秘密の密輸ルートを使い、シュレイド達は僅か一日足らずで王都に辿り着いたのだった。








 「なんだかんだ言ってお前も付いてきたんだな、リィリィ。」




 「まぁ、あんな凡ミスで死ぬのは流石にセレーネがかわいそうですですから。魔王の継承者を見極めるっていう本来の目的もありますし、リィリィはシュレイドさんと大きく別行動を取るのはありえないんですよ。」




 「魔王の継承者うんぬんはスルーするとして、着いてきてくれて凄く心強い。ありがとなリィリィ」




 俺はリィリィの頭をポンポンと撫でた。




 「も、もう! いいからさっさとセレーネ助けてこんなクソ王都からはおさらばするですよ! 」




 「ああ、なんか王都に入った辺りから身体がヒリヒリするもんな……」




 そうなのだ、ヒリヒリして気持ちが悪い。


 ラノベとかだったらこれは聖なる力と闇の力が反発しあってるとかそう言うアレだぜきっと。




 忌々しげに王都を見渡す。


 王都は白と緑を基調とした統一されたデザインで、異世界に来てからは珍しい背の高い建物が王宮を中心に建ち並んでいた。




 王立刑務所はこの王都の外れにある。




 「ん! これ見て下さいです! 」


 リィリィが俺の服の裾を引っ張る。




 「どうした? 」振り向くと、そこには貼り紙があった。




 『悪役令嬢セレーネ、3日後公開処刑! 』




 「なっ、」




 いくらなんでも捕獲から処刑まで早すぎる。




 「罠、なんですですかね? 」


 「ああ、多分一緒に銀行強盗した仲間がいる事はバレてるだろうしな。」




 だが、やる事は決まった。




 「3日後の公開処刑に乗り込んで、セレーネを救出する! 」


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