12話 重圧とボストンバッグとぶち抜き丸2号
まぁ見てなって感じでリィリィにウインクされちゃあ俺に反論はできない。
決してリィリィから目を離さないようにしながら、俺はぶち抜き丸2号の制作を始めた。
「我が名はリィリィ! 重圧の名を冠し、愚かなる最強共に鉄槌を下す者。故に執行する。まずは己が力を知るがいい! 『第一判定、
リィリィの固有魔法、『重圧』。それは強さを重さにする能力!
この街の冒険者らは一人一人が強い、それ故に、その強さ故の重さに膝をつく。まるで自分の体重すら支えきれなくなった様に———
「今なのです! 」
そ、そうだった!思わず見惚れてたぜ……
シュレイドはリィリィによって次々倒れていく冒険者達には目もくれず、ぶち抜き丸2号へ向き直った。
「突撃だあああああああ! 」
「ゴーゴーですわ! 」
ぶち抜き丸2号のケツを飛び乗りながら蹴り飛ばしてスタートだ!
坂を加速しながら下るぶち抜き丸2号。
その勢いのまま銀行の入り口をぶち破り職員を二、三人轢いてそのまま金庫へ———
ガィイイイイン!
耳障りな音と火花を散らしてぶち抜き丸は停止する。
そんなバカな、最高硬度の金属を、最強に強化したキックで100メートル以上加速させ続けたんだぞ!? 破れない訳が……
普通に考えて破れない訳がない。
ならばまさか………普通じゃない? 金庫は物理防御の他に何か魔法的封印がされているとかか?
こうなったら仕方ない、ぶち抜き丸は無駄になったが銀行強盗とは本来「金を出せ! 」と脅して銀行員に金を出させるものだ。ここはセオリー通りいこう。
「さぁ、早く金出さねーとぶっ殺しますわよ! 」
セレーネが職員に突っかかっていた。行動が早い。
けどなセレーネ、なんの凶器も無しに脅迫はできないんだぜ……
「職員パンチ! 」
「ぎゃふん! 」
それ見たことか。
しゅっ!
おっと俺にも職員パンチが来たか。だが、魔法で身体能力を強化してるから効かないぜ!
「こんなもん、左手だけでも楽勝だぜ! 」
「おっと動くな! 」
なんだ?
振り向くと、セレーネが喉元にペーパーカッターを突きつけられていた。
「動けばコイツの首を掻っ切る! 」
銀行職員に脅迫されてしまった。普通逆だろ……
しかしどうしたものか、こりゃ迂闊に動け———
ペーパーカッターぐらいでは人を即死させるのは無理なんじゃないだろうか?
セレーネとシュレイドとの距離は数メートル、今のシュレイドの身体能力なら一コンマとかからない。
ようはペーパーカッターでセレーネの首が切られる前にセレーネを取り戻せばいいのだ。
「ぎゃああああああああシュレイドーー助けて下さいましーーーー!!! 」
「このっ、うるせぇぞ! 」
職員の意識が逸れた。今だっ!
右脚が爆発する程の力で踏み込んで、半歩で距離を詰める。
腕を職員とセレーネの間に差し込む様にしてセレーネを奪取。
そしてそのままセレーネを抱え、勢いそのまま銀行の外へ脱出した。
「た、助かりましたわ……」
セレーネの頬が赤くなっているのが見えたが、気にしている余裕は無い。
とっとと銀行強盗を完遂する!
「金庫の場所が分かったんだ、金庫に気を付けながら攻撃しまくって相手降参させてゲームセットだ! 」
「そ、そうですわね! 」
おぼつかない返事、なんだかセレーネの調子がおかしいぞ……
「どうしたセレーネ? なんかいつにも増して変だけど頭でも打ったか? 」
「……そうかもしれませんわね。」
「そうゆう事ならそこで横になってろ。頭を動かすとアレってゆうからな。」
「そうしますから、その、離して下さる? 」
「あっ、悪りぃ」
急いで手を離す。
ゴトッ。
「ちょっ丁寧に扱ってほしいですわ! 」
そういえば、こんなヤツとは言え女の子だったじゃないか。
咄嗟の事とは言え結構触ってしまったぞ。後でセクハラだーなんて言われたら嫌だな……
「なんですのその目は? 」
やべっ
「いや、そういえばお前も女の子だったんだなって…… 」
そう言うとセレーネは顔を更に赤くした。
「なっ、今まで私の事をなんだと思ってたんですの? 」
「えっとそうだなぁ……死線を共に乗り越えた……」
どうも照れ臭くて言葉に詰まってしまう。
「死線を乗り越えたなんなんですの? 」
上目遣いで聞いてくる。そうだな……
「い、いやいいじゃねぇか、そんなことより今は銀行強盗だ! 」
セレーネはむっとした顔になったが、「銀行強盗に成功したら今の話の続きしますわよ。」とだけ言ってこの場は納得してくれた様だ。
「よし、それじゃあ銀行にヴォルカニックスピアをぶち込むか! 」
右手を前に構え、慎重に標準を合わせる。
狙うは銀行の左上部だ。
「ファイヤっ! 」
ドォン!
銀行の屋根が豆腐を崩すみたいに容易く破壊される。
「へっ! 銀行職員ども、早く金を出さねーと次はアンタらがあの屋根みたいになるぜ! 」
悪役っぽいセリフがスラスラ出てくる。これも魔王スキルのお陰だ。
「違うんじゃが!? 」
どこかで白髪ののじゃロリがそんな事を言った気がしたが、気のせいだろう。
その後、銀行職員が大量の札束を抱えてやってきた。
「ど、どうかこれで許して下さいっ…… 」
……この裕福な街の銀行の金が人一人で抱えられるだけの量である筈がない、もっと搾れるだろう。
「とりあえずその金さっさと詰めろ。あと金はまだあるよな? 」
俺はボストンバッグを取り出して、銀行職員に指示をした。
「ひいいいいいい! 」
「シュレイドさーーーん! 」
リィリィの声が聞こえたのは、丁度銀行職員がボストンバッグに金を詰め終えた時だった。
「どうしたリィリィ! 」
「もう冒険者達を押さえつけられませんです! 金はまだですです? 」
その声を聞いた途端逃げ出そうとした銀行職員からボストンバッグを引ったくる様に奪い取り、
「全部じゃないが、ある程度は手に入れた。ここらでずらかるぞ! 」
「分かったです! 」
リィリィの手とボストンバッグを掴んで、俺とリィリィは風を切る速さでウェットパークを後にした。
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