11話 異世界銀行強盗!


 「シュレイド、そしてリィリィ。私達は何故この街のに来たんですの? 」




 「そりゃ冒険者登録してクエストこなしてその金で宿と飯を———」




 「そう、つまりお金の為に来たんですの! 」




 身も蓋も無さすぎる……


 しかし言っている事は的を射ていた。




 「よくわかんねーですけどこんな状況なんだから、結論をさっさと言えこのクソ令嬢、です! 」




 まどろっこしいとリィリィがキレた。




 それに対してセレーネは落ち着き切った様子で宣言する。




 「銀行強盗をしますわ。」




 は?


 何を言っているんだこのお嬢様は。


 銀行強盗?




 「3日も離れた場所にまで指名手配の手が届いているならば、最早逃げ隠れは不可能。ならばいっそ大金を手に高跳びですわ! 」




 バカだ……


 だが、そのシンプルな答えは俺の心にストンと落ちる。




 やるしかねぇんじゃないだろうか? もともと俺はこの世界にとって魔王に召喚された魔王の手先、悪い奴。




 なら———失うものは何も無いじゃないか。




 「乗ったぜ、俺は銀行強盗をする! 」




 ちょうど良い事にこの街は裕福な街だ。


 銀行の金も多いだろう。




 「正気ですかシュレイドさん!? それにもう追っ手が……」




 「なんだ、そんなことを気にしているのか。そんなもんこうだっ! 」




 氷系魔法、コキュートス。


 おおよそ命が存在する前、零より低い、原初より前の世界を思わせる冷気を地面に向かって放つ。




 地面がツルツルに凍り付き、踏ん張りを失った追手達がスッテンコロリンと転びまくった。




 「これで問題ないだろ? 」




 リィリィは呆れた顔でもう好きにしてくれという様子だ。




 「それでどうやって銀行強盗するつもりなんだ? 」




 「考えてませんわ! 」


 そんなことだと思ったよ。




 「クソっ、せめて銀行の場所ぐらいは教えてくれ、作戦考えるから。」




 「シュレイドさんの最強魔法で全部なんとかなるんじゃないですです? 」




 「そりゃ無理だ。威力高過ぎて全て消し炭。さっきの氷魔法も威力強すぎて向こう何年かはここら一体永久凍土よ、」




 「うわぁ……」




 リィリィがドン引きしてるが、しょうがないじゃん。




 「この坂の下に銀行がありますわ! 」




 「坂道か……そうだ! 」




 「なにしてるです? 」


 「加工魔法でちょちょいっとな。」




 ぶち抜き丸(仮称)俺の加工魔法で作った突撃兵器だ。


 作りは簡単で、直径1メートルぐらいの槍に車輪を4つ付けただけ。


 雑にオリハルコンを利用していてめちゃくち硬い。




 「これを押して突撃するんだ! 」




 「よしリィリィ、乗るのですわ! 」




 「元は魔界序列12位のワタシがこんなバカ丸出しの兵器に乗るハメになるなんて……」




 文句を垂れるリィリィをセレーネが引っ張り上げたのを確認し、レッツゴーだ!




 加速しながら坂を下るぶち抜き丸。いける……いけるぞこれは———




 「そういえば、坂の下の銀行ってのはあの緑の屋根の建物でいいんだよな? 」




 俺は右を指差して確認を取った。




 「え、違いますわ! あっちの赤い屋根の方ですわよ! 」




 対してセレーネは左を指差す。




 なっ、もう止まれねぇぞ!




 「リィリィちゃんジャンプ! 」




 リィリィがぶち抜き丸から飛び降りた。それに続いてセレーネも……




 「悪役令嬢ジャンプっ! 」




 ちょっ待っ———




 ドンガラカッシャーン!


 ぶち抜き丸、クラッシュ!




 オリハルコンの硬いボディには傷一つ付いていないが、上に瓦礫が積もっていて動かせそうもない。




 「仕方ねぇ、もう一度坂を登ってぶち抜き丸作って———」




 「何故そこまでぶち抜き丸に拘るんですですかぁ…… 」








 息を切らして坂を上り切ると、一目で強いと分かる冒険者が数名待ち受けていた。




 よく考えりゃあここらの冒険者が強いのは当然と言えば当然なんだよな……この街の周りには強い魔物が湧きやすいんだから。




 「な、なんかやばそうですわね…… 」




 横のセレーネが生唾をゴクリと飲む音が聞こえた。


 俺も緊張に体が強張る。






 「この街での狼藉は許さない! 」


 と長剣を持った金髪の男が、






 「へへへ、懸賞金で今夜はパーティーです……」


 とトレジャーハンター風の女が、






 「クエスト明けで疲れてるんだがねぇ。」


 と大斧を担いだ巨漢が、






 「くしし、おしゃべりしてると私一人で全員倒しちゃいますよぉ? 」


 と中性的なタガー使いが、






 「……」


そしてローブ姿の魔術師は無言の殺気を放っていた。








 コイツら、この世界で見た中でもかなり強い方だ。


 ドラオスには及ばずとも劣らない危険な相手……ここは万全を期す。




「ここは俺に任せろ! 」




「いや、このぐらいの相手ならワタシが時間を稼ぎますです。その間にとっととぶち抜き丸2号でも作るですですよ。」




 瞳を細めたリィリィ、殺気すら感じるその姿は頼もしいが———




 「いやお前直接的な戦闘力無いって言ってたじゃんか。」




 そう言うと、リィリィは不敵な笑みを返した。




 「いい機会だから見せてやりるって言ってんです。一度は魔界序列12位、重圧のリィリィと呼ばれたワタシの固有魔法を! 」


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