10話 ウェットタウンはいい所


 俺達はガーゴイルと戦った集落で一日休んだ後、やっぱりドラオスと戦った街からは離れた方がいいという事で、遠くの街を目指す事にした。


 集落の人々から地図やら食料などを分けてもらえたのが、この世界で生活力がない俺たちにとってめちゃくちゃありがたかった。




 次の目的地までの道中はセレーネが野宿に文句をつけたぐらいしか目立ったことは無く、3日後、おおよそ順調に目的地まで辿り着けた。


 「よ、ようやく新しい街だーーー! 」

 「や、やっとですわね……」

 「疲れたですよ〜」


 街の名前はウェットパーク。

 豊富な資源があり、割と裕福な街だが、その資源目当てに強いモンスターが出現し易い街でもあった。


 木でできた門を潜ると、大きな通りに出る。


 「でかい……」


 それなりに人通りはあるのだが、風が吹き抜けていて心地がいい。

 昼前の陽気も相まってか、とても穏やかな気分になった。


 「さて、俺はこれから冒険者ギルドに行ってみるつもりだけど、お前らはどうする? 」


 「私はこの街を少し散策してみますわ! 」

 「私も散歩するです」


 「じゃあ別行動だな、昼過ぎにはまたここで落ち合おう」


 「そうですわね」「りょーかいです」


 そう言って二人はトタトタと走って行った。


 「俺も行くか……」


 向かうは冒険者ギルド、今度こそ冒険者デビューだ!




 木造で二階建て、近所にあったファミレスより一回り大きいぐらいの大きさ。

 ってこれ作りが前の街のギルドと全く同じだ、チェーン店的なものなんだろうか?


 重い扉を押して中へ入る。

 そしてまた受付さんに案内されるまま、魔力測定の水晶の前に立った。


 「これは魔力を測定する魔道具。手を翳してもらえればその人がどれくらいの魔力を持っているか分かるんですよ。翳して、魔力を意識してみて下さい」


 全く同じ言葉に思わず口元が緩む。


 「ええ、でもその前に、離れていた方がいいですよ」


 「?」


 変なものを見る目をされてしまったがまぁいい。早く冒険者登録を終わらせてしまおう。


 ひょいと水晶に手を翳して魔力を意識する。

 ピカ、ピカ———


 バリィイイイイイン!


 水晶が爆発した。荒ぶる俺の力が抑え切れなかったみたいだぜ!


 「水晶……爆発……まさか……」


 受付さんが青い顔をして、口元に手を当てていた。


 「ちょっ、どうしたん———」


 「冒険者の皆さん、この人を捕まえて下さい! 報酬は弾みます!」


 ガタガタと昼間っから酒を飲んでいた数名の冒険者が立ち上がる。どうして……


 「あなたの事は冒険者ギルド中に知れ渡ってますよ。奇怪、水晶爆発野郎指名手配中ってねェ! 」


 ビシッと指を刺された。


 俺だって好きでやった訳じゃないのに……


 「くっ、ここは逃げるしかねぇか」


 「うぇー、ひっく。逃さねーぜ兄ィちゃん」


 「どけ酔っ払いが! 」


 巨漢を片手で弾き飛ばし、俺はギルドから脱出した。




 まさかこんな遠くの街まで悪名が轟いてるとは———

 全く、ついてないぜ……


 「ともかくアイツらと合流して何処かに隠れないと……」


数分前に分かれた合流地点には、既にセレーネとリィリィの二人が居た。


 「あっ、シュレイドさん! 」

 「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛ですのおおおおおお! 」


 二人のその様子からいい予感がしないが———


 「お前らもなんかやらかしたのか!? 」


 「私の指名手配がこの街にまで届いていたんですのよ! 」


 「そうか俺もだ! 」


 「クソみたいなパーティーですですねホント、とにかく逃げましょ逃げましょ」


 リィリィの言う通りだ。俺の後ろの方から俺を追ってきた奴らの足音が聞こえるし。


 「いや、逃げるだけでは解決しませんわ! 」


 「どうしたセレーネ? 早く逃げないと———」


 振り返ってセレーネを見ると、彼女の瞳は赤く燃えていた。何かわからんが、やる気を感じる。

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