9話 邂逅と因縁は白い系に続く


 「よろしくお願いします」

 「……」


 席に着いて挨拶する。女子高生は返事をしなかった。


 挨拶は別に礼儀だとかでやっている訳ではない。

 ルーティーンという一定の行動を取る事で自分のコンディションを高めるみたいなのが一時期流行っていて、それを真似ているだけだ。


 大丈夫。シュレイドは有利な相手だし、何より差し込みガードなら俺もできたことがある。


 いける、いけるぞ俺……

 勝ってあの歓声を俺の物にしてやるんだ!




 そして試合が始まった。


 俺のシュレイド対策は完璧だ。何せこのゲームをどこでやったってシュレイドとマッチングするので、相手の行動パターンが頭に入り切っているのだ。


 ロンロンの低い身長を生かしてシュレイドの懐に潜り込み、掴み攻撃でマウントを取る王道の作戦で行く!


 が、シュレイドはしゃがみ攻撃でロンロンの接近を防いだ。


 相手の身長が低くて当たらないならしゃがみ攻撃。


 単純な事だが、俺のロンロンは使用率があまりに低く、それが気付かれるのは二本目以降が大半だったのだが……


 「ならこれはどうだ! 」


 ロンロンミサイル! 自身を弾丸にして突撃する技だ。これで近付いて———


 ジャンプで飛び越されてしまった。


 なら遠距離攻撃だ!

 

 撃ち落とされた。


 なら———


 ピキーーーン!

 シュレイド10連撃!


 あっ、差し込みガー———


 1P WIN!

 モニターに現実が表示される。

 悉くを対処されて負けた。隙が見えない。

 

 どうする?どうする?どうする?


 一本目から二本目までの10秒足らずのロード時間で必死に考える。

 思考がまとまらまとまらまとまら———


 『見えた———』


 纏まらない思考の中で、さっき聞こえたその言葉を、何故か思い出していた。




 2P WIN!


 ———へ?

 気付いたら一本勝っていた。

 記憶が無い。

 

 だが、なんだか知らないがラッキーだ!

 勝利したという事は、勝ったという事で、つまり二本目に何をしたかを思い出せば勝利の糸口が———


 糸口、糸———線!


 そうだ線だ! 白く光る線が見えて、それをなぞるように技を入れたら———


 「おいペディ! 試合始まってんぞ!」


 豚島の声で我に帰る。


 本名じゃなくニックネームで呼んでくれた事に優しさが感じられるが、この時の俺は必死にキャラを動かした。


 そしてそれでいいと思う。


 『ロンロンタイフーン! 』


 必殺技を振って何とか相手のシュレイドと距離を取る。


 状況を確認する。

 ロンロンのライフポイントは半分、必殺技ゲージは今使ってゼロになった。


 対してシュレイドのライフポイントは役七割、必死に打った必殺技が掠ってくれた様だ。 


 必殺技ゲージは———MAX、まぁ試合中に気を抜いた罰がこれなら、軽い方だろう。


 「ここからが本当の勝負だぜ……」


 口の中だけで呟いた言葉は、当然のようにゲーセンの音に掻き消され、しかしそれを聞いたかのように相手のシュレイドが大技を打ってきた。


 ビッグスラッシュ。いや名前は違かったかもしれないが、そういう感じの大振りで大ダメージの技だ。


 ガードにするか? いや大振りだ!今からでも攻撃が間に合う!


 ロンロンが右腕を竜と化させながらパンチを放った。

 が、やや勇み足だった様で、シュレイドの大振りが当たってしまった。


 と、その時また、あの"白い線"が見えた。


 その線は曖昧な記憶の前回と違ってはっきりしていて、それでいてシュレイドとロンロンを結んでいた。


 まるで糸だ、結んで、たわんで。


 その糸を伝ってシュレイドに届くようにロンロンの攻撃を振る。

 すると、糸電話の振動が返ってくるかの様に、シュレイドも攻撃を振ってきた。

 

 糸が増えていく。


 シュレイドの剣戟がロンロンを切る。


 糸が繋がっていく。


 ロンロンの攻撃がシュレイドをよろめかせる。


 糸が


 攻撃が、


 繋がって、当たって———




 来た! シュレイドの必殺技、10連切り。


 線が、糸が、絡まりに絡まって視界を白く染める。


 そしてそれが開けた時、俺はロンロンにガードの入力を伝えた。






 1P Win! 

 ウィナー、シュレイド!


 負けた。

 前回程ではない歓声が、俺の敗北を伝える。


 モニターから顔を上げると、対戦相手が俺を見ていた。

 

 対戦ありがとうございました。と、いつもなら言う。

 だがこの時は、激戦の後の真っ白な思考からか、無意識の言葉が喉から出る。


 「あっ、名前———」


 そうだ、俺はコイツと、もう一度戦わなければ———


 「……ハムカツメロン」


 は?


 対戦相手は去っていった。


 ハムカツメロン、ハムカツメロン……




 『優勝は、ハムカツメロン選手です。おめでとうございます。』


 パチパチと疲れた拍手が辺りからちらほら。


 「……どうも」

 勝者は俯き、ただ一言言うだけだった。


 「って、ハムカツメロン名前かよーー! 」

 心の中で叫んだ。


 その後、ずっとハムカツメロンの事を考えた。

 考える度に腹が減った。

 

 あの白い線が繋がったあの瞬間を思い出しては、ああすれば、こうすればと後悔した。




 次の週も同じゲーセンに行った。

 ハムカツメロンは居なかった。


 俺はあの試合をずっと頭の中に留めながら、もう暫くの間がむしゃらに戦う。

 幾つ勝利を重ねても、あの一瞬を忘れられなかった。

 

 もう手遅れのあの一瞬の勝機を、追い続けるしかなかった。


 その後は色々あって二年が経ち、シュレイド使って対戦してたら異世界転生したって訳だ。


 どうしてロンロンからシュレイドに使用キャラを変えたのかとかは、まぁ、いつかまた思い返すだろう。

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