8話 過去———それは邂逅の1f


 少し昔話をしよう。


 あれは俺が異世界転生する丁度二年前ぐらいの秋だった。

 高校一年の秋。

 まだ格ゲーで世界一になるなんて嘯いて全力で頑張ってた頃の話だ。




 地元から電車で30分ぐらいの都会にある大きなゲーセンで、大きな大会があることを格ゲー仲間の豚島から聞いたのは、もう3日前のことだった。


 豚島は昨今では珍しい古典的なオタクで、やたら行動力がある俺の幼馴染だ。


 俺は中学の頃、そいつから色んなアニメを勧められてオタクになったりなんやりで、高校に上がって、最近は格ゲーにハマっていた。


 「豚島、例の大会出る事にするよ」


 インターネットでエントリーを完了させながら、豚島と電話している。


 「ホントにござるか? 某はてっきり見に行くだけだとばかり……」

 「えっ、」


 もうエントリーしちゃったじゃねぇか。


 「まぁ拙者はデータ集め専門でござるからな」

 語尾が安定しない豚島だった。


 「理屈ばかりの典型的なオタクがよ……」


 悪態を突きつつ、じゃ、日曜の11時に駅前で集合な。と約束してその日の電話は終わった。




 土曜の夜、動画サイトでプロの対戦動画を見まくって寝不足だった俺は待ち合わせに盛大に遅刻した。


 駅前は休日ということもあってかいつもよりも人通りが多かったが、所詮は小さな駅なので走り抜けてもさしたる問題はない様だ。


 まぁ待ち合わせはともかく大会は大丈夫だろう。プロだってミスしていたし、あれくらいの技なら俺にもできる。


 「やあ、待った? 」

 「うふっ、今来た所よ」


 なんてカップルみたいな事を言い合う。悲しい事にそこに居るのはオタク二人な訳だが。


 「はぁ……」


 「行くか……」


 二人はとぼとぼと歩き出した。



 

 電車に揺られて30分。駅から歩いて徒歩5分。

 俺達は決戦のバトルフィールドへと辿り着いた!


 「はぁはぁ、ここが噂の……」

 「はぁ、はぁ、そうでござる」


 二人とも息が上がっているのはご愛嬌。体力など無いオタク達……


 それにしてもデカいな、ゲームセンターDX(店名)。

 赤い看板はバカデカく、周りの飲食店やパチンコ屋なんかと遜色ないぐらい目立っている。


 店に入ると一般の客に紛れてそれらしき人もちらほらといた。


 「み、見るでござる。あれ、プロゲーマーのkn(ケーエヌ)でござらんか!? 」


 豚島の視線を追うと、有名なエナジードリンクの帽子を被ってる人が居た。

 凄い人みたいだ、俺は知らないけど。


 「すごいな。それじゃ俺はエントリーしてくるわ」


 「せいぜい頑張って来るでござる」


 背中にそんな声を感じたが、エントリー締切時間も近いので、返事も後回しにカウンターへ向かう。




 一回戦の相手は環境でも最強と言われる強キャラの、剣士シュレイドを使う相手だった。


 俺の使うロンロンにとっては有利な相手。

 ロンロンは幼女キャラで背が低いので、シュレイドの中段攻撃が基本的に当たらないからだ。

 

 『ロンロンタイフーン! 』


 相手に攻撃を空振らせた隙に必殺技を打ち込み勝ちを拾った。


 強いキャラが敗れた事もあってか、会場が少し湧く。

 俺は小さくガッツポーズを取った。




 さて、豚島はどこかなと会場を探すと、俺の試合には目もくれずに隣の試合を見てやがる。

 

 プロゲーマーの……えっと……けーえぬ? だったかと制服を着た女子が対戦してる様だ。


 確かに俺も身内の試合と女の子の試合なら女の子の試合を見るなぁなんて思いながら試合を覗くと、その内容に驚愕する。


 ケーエヌが使用するキャラはシュレイド、女子高生が使っているキャラもシュレイドだった。


 同じキャラ同士の対戦。

 条件が限りなく近いその対戦は、露骨に実力の差が出るマッチングだった。


 ケーエヌの使用するシュレイドのライフポイントバーの上には相手から一本取った証のフラックが当然のように付いていた。そしてそれは女子高生のシュレイドのライフポイントバーにも同様に。


 1対1なのだ。


 凄いなこの子、プロ相手に一本取ったのか。


 そして三本目である今も、ライフポイントがプロより多い。

 しかもコンボ攻撃を決めてプロを更に追い込む。



 「こりゃもしかするともしかするかも知れんでござるな」

 「ああ、だが試合はまだ分からないぜ」



 ダメージを受けたプロゲーマー側の必殺技ゲージがマックスになっている。

 必殺技をまともに喰らえば女子高生側のシュレイドのライフの消し飛ぶ。勝負はそこだ。


 キュピーーン!


 プロ側のシュレイドの必殺技が発動した!


 攻撃を振らせた隙に打ち出す完璧なタイミング。流石プロだ。


 「———見えた」


 「え? 」


 誰が言ったか、そんな言葉に気を取られている間に試合は終わってしまった。


 勝ったのはその女子高生だった。






 「ええ、見逃したでござるか!? 」


 「ああ、だから教えてくれよ、何が起こったんだ? 」


 会場が大盤狂わせに盛り上がってる中、俺は話題についていけず疎外感を味わっていた。


 「そうでござるなぁ……端的に言えばあの子のシュレイドが、kuのシュレイドの必殺技を防いだのでござる」


 「馬鹿な、シュレイドの必殺技は10連続切りだろ? あの状態で防げるわけ……」


 「もちろん全部防げた訳じゃないでござる。ただあの技は———」


 あの技は一撃目を食らったあと、数瞬だけガードできるタイミングがある。昨日動画サイトで見たやつだった。


 確かにそのガードが成功すれば必殺技で受けるダメージが減って、あの子のシュレイドは生き残れるが……


 「まさか、やったのか! 伝説の『差し込みガード』を!?」


 聞くまでもなかった。

 豚島の顔と会場の反応が物語っているではないか。


 視線を外した豚島が背を向けながら言う。


 「お主の次の対戦相手、あの子でござるな」


 死んだわ俺。

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