7話 続、食料問題!!!


 数時間後、俺達は木々の隙間から民家を見つける。

 山間の集落だった。


 なんか騒がしいな……


 「あそこ! 燃えてますわよ!」


 セレーネが指さした方を見ると、木造の家から黒い煙が上がっていた。


 「ちょっと感覚を強化して索敵してみる、お前ら大きな音出すなよ」

 「わかりましたですよ」「了解ですわ」


 よし、意識を集中させろ……


 「敵だー! 」「ギャァアアアアス! 」ボウボウ、ガシャガシャ……


 「うっ、鼻がむずむずしてきましたわ……」

 「くしゃみすんなよ、マジで」


 こんな聴力を強化した状態でくしゃみなんてされたら冗談じゃなく鼓膜が破れる。

 鼻をひくひくするセレーネが、シュレイドの目には時限爆弾の様に映った。


 「へくちっ! です」

 「ぎゃああああああああ耳がああああああ」


 くしゃみをしたのはリィリィだった。

 超精度の鼓膜が強い衝撃を受け、脳が揺れる。

 うう……耳が痛え……


 「で、索敵の結果はどうなんですの? 」


 「火を吹くガーゴイルが一匹、家燃え、交戦してる村人が数人」


 耳が痛いのでぶっきらぼうに答える。


 「ガーゴイル……魔界なんたら13位のリィリィならすぐに倒せるのではなくて? 」


 「おっ、いいなそれ」


 ナイスアイデアだセレーネ、俺はもう働きたくない。


 「ワタシ直接的な戦闘力無いんでパスです。それにお腹空いて力出ないですよ〜」


 駄々をこねる子供の様にじたばたとした、いや実際リィリィの見た目は子供な訳だが。


 「そういやリィリィって何歳なんだ? 」


 ふと気になったので聞いてみる。

 黒幕っぽい登場からゲスな言動だ、子供っぽいと思う事は少なかった。


 「あー、女の子にそうゆう事聞いちゃうですか〜? 」

 「流石にそりゃねーですわよ」


 女子二人にじとっとした目で睨まれては、もう何も言えなかった。




 「そうだ! ガーゴイルを倒して恩を売って村人から食料をたかるのはどうですの?」


 「ナイスアイデアですセレーネさん! 元貴族とは思えない乞食みてーな発想が良い!+50点あげますです」


 リィリィがぴょこぴょこ跳ねながら上からな事を口にするが、セレーネは気付いていない様で、「おーっほっほっほ! 」と高笑いするだけだった。

 どっかで覚えがある言動だな……


 「じゃあまぁガーゴイル倒すか! 」


 「よし、行けですわ! シュレイド!」

 セレーネは、シュレイド を繰り出した!


 「ギャハハハハハハ」

 幼女が桃色の髪を揺らして腹を抱えていた。


 「お前らなぁ……」




 集落の中に駆け込み、ガーゴイルまで一直線に民家を突っ切る。


 「おっとり刀で駆け付けた! 危ねぇから下がってな!」


 ガーゴイルの目の前に滑り込みながら言い放つ。決まった……


 「こいつは強敵だ! 危ねぇから兄ちゃんの方こそ下がってろ!」

 集落の中年戦士が声を荒げた。


 「ふふっ、まぁ見てるが良いですわ、シュレイドのクソバ火力を! 」

 「刮目せよです! 」


 二人の信頼を背中に感じる。


 カッコの付け所だぜい。


 「へへっそう言うこったぁ! いくぜええええええええええええ!!!」


 困惑する集落の人々を待たずにガーゴイルへ突っ込む。

 羽を広げたガーゴイル。三メートルぐらいの巨体が更に大きく見えた。


 「ギャアアアアアアアアアアス!!! 」


 叫び声と共に鞭のようにしなる尻尾が振り下ろされる。


 今だ!

 「ヴォルカニックスピア———! 」


 炎纏し槍で全てを貫く凶悪な炎攻撃魔法だ。


 ゴオオオオオオオオオオオオオズッ!

 轟くは轟音、貫くは灼熱の一閃。


 派手な音と共に光が辺りを包む。

 温い一陣の風が吹いて光が晴れると、胴体を貫かれて倒されたガーゴイルの姿が露わになる。


 シュレイドが拳を上げると、集落から歓声が上がった。




 「ガーゴイルを倒したぜ! 」


 「おお、すげぇぜ兄ちゃん! 」

 集落の戦士がこちらに駆け寄る。


 「やりますわね。」

 「流石腐っても最強スキルの持ち主なだけあるですです! 」

 二人もトタトタと後に続く。


 「これでこの集落も救われたよ、何かお礼をさせてくれ」


 ありがたい提案だな、それじゃあ……


 「じゃあ、昼飯をご馳走になりたいですわっ。もう私お腹ペコペコですの! 」


 と、割り込んで来たセレーネが提案する。


 俺も同じ提案をするつもりだったが、なんだか手柄を横取りされた気分だよ……




 俺達は集落の真ん中の広場に招かれた。

 広場と言ってもそんなに広くはなく、俺達三人と集落の戦士数名が集まると、そんなに隙間は残らなかったぐらいだ。


 焚き火を囲う。

 パチパチと弾ける薪の音が心地良かった。


 「どうぞ、この集落の名物、焼き芋です! 」

 一番若い集落の戦士から焼き芋を手渡される。


 異世界にも焼き芋ってあるんだな……


 「熱いですから、お気をつけて」

 「ああ、ありがとう、いただきます」

 「いただきますです」

 二人でかぷり。


 「これ本当に食べられますの? 屋敷では出された事ないのですけど……」


戸惑った声を上げるセレーネを気にせず焼き芋を一口齧る。

 口の中にホクホクと温かさが、じんわりと甘さが広がって非常に美味い。


 「ん、うまいですです」


 俺とリィリィが焼き芋を食べるのを見て、セレーネもおそるおそる焼き芋を齧った。


 「ほごっ、う、うまいですわ、わ! 」


 出会ってから一番良い表情してやがるぜ……

 それからセレーネはガツガツと焼き芋を四つも食い切った。

 焚き火が暖かかった。




 それにしても、色々あり過ぎて気が回らなかったが、とんでもない力を手に入れたものだ。


 魔王スキル。ガーゴイル戦で初めてまともに活躍したそれは、やっぱりチートじみた強さだった。


 拳を握り、ほぅと息を吐く。


 そう言えば俺は力というものに強い執着があった。

 腹が膨れたので、そんな昔のことを思い返した。


 俺が力に執着するようになるきっかけとなった、あの出会いを———

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