のじゃロリ魔王に最強スキルを貰って異世界転生した俺が気付いたら悪役令嬢と一緒に銀行強盗していた件【season1完済】

15話 処刑人vsシュレイド

　初めに動いたのは処刑人だった。

　背中のギロチン大剣を抜き、そのまま斬りかかる。

　ブォンと風を切る音、すんでのところで躱したシュレイドは、すぐさま魔法で反撃する。

　使う魔法はもちろん、使い慣れていて信頼がおけるヴォルカニックスピアだ。

　しかしこればっかりだな俺、格ゲーでも同じ技擦りまくってたし……癖まで異世界転生してやがる。

　鋭利な灼熱は処刑人の脇腹を擦り、そして抉る様に溶かす。

　そうなんだよ、鋭利なんだよなヴォルカニックスピアは。

　魔王スキルで使える攻撃魔法は全てを滅ぼすような威力と範囲のやつばっかりで、マシなのはヴォルカニックアローと水魔法のウォーターパニックぐらいなのである。

　あと制御が楽な攻撃手段は加工魔法でナイフでも作って、肉体強化魔法で強化した筋力使って投げるとか？

　「くっ……」

　ヴォルカニックスピアに腹を抉られた処刑人は膝を付いた。

　よし、動きの鈍ったこいつにヴォルカニックスピアを当てるのは簡単だ！

　これでコイツを殺せる！

　———殺す？

　ドラオスの時は全く余裕が無くて考えもしなかったが、冷静になると人を殺すなんて無理じゃないか……？

　コイツは首を切るのが大好きなサイコ野郎だが、しっかり話をしちゃったし、もう顔も覚えてしまった。

　例えば俺が元いた世界で人を殺したらもう人生はやり直せないぐらいの罰を受ける。

　この世界で人を殺した場合はどうだろう？

　刑務所なんて所があったんだから罰は用意されている筈だ。

　しかし俺は強い。俺を罰しようとするもの全てを悉く殺し尽くし、逃げ切る事は容易だろうとかそういう話してんじゃねぇんだよ！

　ちょっとでも考えたら分かるじゃん無理じゃん……

　でも倒さないと……

　しかしそれは……

　葛藤、シュレイドの手が止まる。

　口が渇いて唾を飲む。

　無理、無理だ無理だよ無理なんだ……

　シュレイドの心が止まる———

　「油断するんじゃねーですわ！　」

　声が聞こえて無意識に体を半歩ずらす。

　と、それまで俺の首があった場所には処刑人のギロチン大剣があった。

　「……っ！　」

　頬に熱い熱が伝う。

　手で触れると手が赤く汚れた。

　血だ、俺は頬を切られたのか……

「あんま動かないでくれよ、切り損ねちゃったじゃんか」

　バツが悪そうに処刑人は頭を掻いた。

　ドラオスの擬似ナイフの時と同じ、シュレイドの超強力な物理防御魔法を貫通してくる刃物。

　奴は俺を殺せる。その事実を嫌でも実感した。

　手が震え、膝が笑ってしまう。

　「な、なあ、その大剣って勇者の聖剣だったりする？　」

　口をついたのはそんな苦し紛れ、

　本当は分かっているのだ。

　あのギロチン大剣からは、ドラオスが使った勇者の聖剣の破片に感じた波動は感じられない事なんて———

　処刑人は純粋な技量で俺を切ったのだ。

　魔法の構成の隙間とか、絶対に首を切れる法則から運命を確定させて奴の認識外の魔法を無視したとかそういうレベルの俺には推し量れない何かで、超レベルの俺の防御魔法を超えて。

　「勇者の聖剣？　それもいいな！　首切りに使う刃物ってのもまだ拘れる部分だった！　このギロチン大剣は単にギロチンに取手を付けて首を切り易くしただけのものなんだが、そうかその手があったのか……うおおおおおおお、俺はまだまだ上へ行けるぜ！　」

　狂気よりも純粋な瞳で処刑人は絶叫した。

　ピリピリと肌が粟立つ。

　俺が相手にしているのはこんなイカれサイコ野郎なんだと今になって恐怖する。

　全く自分の覚悟の無さに嫌気がするぜ……

そんな事を考えている間に、処刑人のギロチン大剣が再び迫る。

　———見えた。

　それは大剣に反射する日の光か、はたまた天啓か、シュレイドは白く光る線を見た。

　そしてその線をなぞっていくと、この状況を打開する手立てが見つかる、そういう線なのだ。

　そういうモンだと理屈や常識抜きに、本能的に理解している。

　現状、迫る大剣。覚悟が足りなくて殺せない相手。

　現状認識———完了。

　勝利及び目的、セレーネの奪還、そして逃亡。

　勝利条件———固定。

　感情まで勘定に入れた無意識の計算が機械的に進み、結論が打ち出されると、思考回路だけでなく、心すらその打開策を理解した。

　殺す覚悟が無い？怖い？

　……ならば、こいつを殺すのは保留すればいい！

　「氷魔法、コキュートス！　」

　殺し合いなんだ、殺すか殺されるかしか無い。

　けど、それが無理で、でもどうにかしなきゃいけないならもう後に回すしかない。

　決断に逃げ道を作れれば俺の行動は早い。

　その捨ての判断の速さで、俺は人生で最悪の状況だけは回避し続けてきたつもりだ……今回も、そう。

　吹き荒ぶ氷獄の体現。

　作り出される氷の彫像。

　こちらへ向かってくる動きもそのまま、瞳を輝かせたまま凍り付いた処刑人は、氷獄の中、それでも瞳の炎を失ってはいない。

　それを見てシュレイドは再認識した。

　これはあくまでも保留。

　きっとこの"後回し"は何とかしなきゃならない。

　それでも今は今の目的を、だ。

　「セレーネ、終わっ———」

　「セレーネさんならもういませんよ。」

　艶やかな声が聞こえた。

　「誰だ！　」

　振り向くとそこには白いローブを着た女が立っていて、俺とその女の周りの世界は何も無い真っ白になっていた。

　「お初にお目にかかりますわ魔王の残骸。私は天空王国四天王の一柱にして勇者パーティーのプリーストを担った者。ピスティと申しますの。」

　勇者パーティー、その単語にシュレイドは首筋がゾクリとするのを感じた。