Ⅱ 友達

「皆さん、おはようございます。昨日はゆっくり休めた……人はあまり居ないと思いますが……」


皆んなの緊張した構えを見て、先生は愛想笑いを浮かべた。


「それでは1刻目は準備運動をしたり、魔法出力を整える時間にしたいと思います。皆さん、それぞれ剣術・魔術・槍術・弓術・武術などなど沢山のことを学んできたので分かるとは思いますが、準備運動や魔法出力の確認は本当に重要です。くれぐれも侮ることのないようにしてください」


先生に言われた通り、準備運動や魔法出力の確認は怠らなかった。柔軟体操、準備運動、素振り、魔法の出力の確認をこなす。


「いやー、1時間も時間を用意されてもなぁ困るよなぁ」


「あーあ、早く試験とっとと終わらせたいなぁ」


ああいう奴らは何処にでも居るみたいだ。師匠の元で修練していた時もああいう奴らを見かけたことがある。大した実力は無いがちょっと出来るからって威張ってしまう奴らだった。自主練習もまともにしていないように見える、実際に私の遥か下の格下だった。


「ねぇ、見て見て!イペルン家次男のディオ様よ!」

女子は真面目に準備運動しているように見せかけて男子を観察していた。男子も気になるようで女子の方をチラチラと見ていた。


「本当に格好良いわ......入学試験でも1位の成績で入ったという噂よ」


「全てを持ち合わせてらっしゃるなんて......なんて罪な御方っ!」 


ディオ=イペルン、確かに彼は強そうだった。その上準備運動、魔法出力共にちゃんと行なっているしかなり鍛えている。この組の中で剣術の強さで言うと上位に組み込んできそうだ。


見たところ、剣術で負ける危険があるのは彼だけだった。それ以外は……正直負ける気はしない。


「イディアさん、ですよね?あのっ、これ試験用の剣ですっ」


後ろから話しかけられてびっくりした。


「ああ、えっと、確かー」


まずい、相手は名前を覚えていてくれたのに自己紹介を聞いてなかったから思い出せない、けど見たことある様な気がした。


「わっ私はケルシュと申しますっ。」


ケルシュさん、名前を聞いてもまだ思い出せない。

ぅぅ〜ん。


「あー、ケルシュさんですね。剣、ありがとうございます。」 


人が良くて優しそうな子だ。可愛らしいタンポポの様な子だった。


「あのっ、試験会場でお見かけしたんですけど凄く剣術上手かったですよね!その、本当に凄いなって思ってて……」


試験会場が同じということで思い出した。魔術試験の時、かなりの実力と緻密な魔法操作の実力で周囲を騒がせていた子だった。凄くふんわりとした印象だったのに、魔術になると射る様な目をしていたのが印象に残っていた。ギャップっていうやつだ。


「あっ、ありがとう!その……今日の試験緊張しない?」


自分の事を覚えててくれた事が嬉しかったようで頬を紅潮させながら話を続けてきてくれた。


「ちょっとだけ緊張するかなぁ、でもいつも通りやるしか無いしね」


「やっぱりみんなそうなのかぁ」


ケルシュさんは困った様な笑いを浮かべて周りを見渡す。

男子、女子共にグループを作り始めて談笑をしていた。


「確かに……ね」

つられて私も苦笑いを浮かべた。


「でも、ケルシュさん魔法操作はお手の物って感じだったし、その細やかな器用さなら大丈夫だと思うよ」


するとケルシュさんは少し驚いた顔をしてはにかんだ。


「あのっ、ケルシュって呼んでくれると嬉しいかなあ、ええとー」


まごついているのをみて、

「じゃあ私の事はイディって呼んで下さい」


ケルシュは嬉しいと言わんばかりの笑みを浮かべてはいっ、と返事をした。

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