イディアのモラトリアム

@cerasus_4r

Ⅰ 入校

くしゃみが、くしゃみが出そうだ。この静かな空間で、この厳粛な空間でそれだけは避けなければならなかった。


「えぇーー、最後にはなりますが、皆さんのご活躍を心より願っております。以上で王立第一学園の第240回入校式を終了致します。」


話などどうでもよかった。必死の思いでくしゃみを抑えた私は大きく深呼吸をする。


形式上の入校を済ませ、個別に連絡されていた組へと移動をする。まだ周りが知らない人ばかりで、如何にも自分は無害であるかのように振舞っている者がいる中、前から交流があったもの同士が、組全体の気まずさを誤魔化す様に話していた。


教室の引き戸をスッと開き、担任らしき人が入ってきた。途端にヒソヒソと小さな声で話していた者が口をつぐんだ。


「今年1年担任となりました魔法座学担当のソフォス=ソヴァロスです。皆さん早速ですが、1人1人自己紹介をして下さい。では、アインさんから宜しくお願いします。」



黒縁の眼鏡を掛けた見るからに合理主義らしい私の組の担任は、自己紹介を要求してきた。

偏見だが、確かに馴れ合いは好まなそうだ。家の布団を愛していそうな顔をしている。


一番手である子の自己紹介を聞き、ある程度の形式を把握した後はただ終わりにする礼を合わせるだけの繰り返しをした。

正直全く話は聞いてなかった。

自分の番が回ってきても名前、どこの流派で剣術などを学んだのか、など最低限の自己紹介をした。「皆さんとお話しできるのが楽しみです」と定型文を付け加えて最低限を守った。


自己紹介を終えた後、先生は


「1日の休みを設けた後、明後日実力試験をしたいと思います。この試験は成績どうのこうのという話よりも皆さんの今の実力を試験では把握できなかったものを学園側で把握する為のものです。明後日、試験で使用する武器は剣です。こちらの方で試験用の剣を用意しておきますので、そういう事で宜しくお願いします。明後日は制服では無く修練着で来て下さい。以上です。」


と簡潔に述べた。

流石は王立の学園である。何から何まで兎に角早い。


先生の号令が終わるとともに続々と生徒が退出していく。

その流れに乗るように私も帰宅する。

本当は学園の敷地内で自主練習をしたかったが、流石に気が引けた。

淡々とした日だった。しかし、これで良いと思った。ただ日常を過ごせれば良かった。

自分の為に生きる、自分がしたい事をすると心に決めたのだから。

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