第148話.暗黒魔法の真実



「……何を言っているのか、よく分からないな」


 セオドリクは苦笑するが、ルイゼは動揺しない。

 わずかに身体を震わせるリーナを庇って、言葉を繰り出す。


「私はエ・ラグナ公国で、魔法大学で教鞭をとられているハイル・カーマン教授に会いました」


(たった数日間の交流だったけれど……)


 ハイルと過ごした日々は、得がたいものだった。

 魔道具の常識に囚われず、あらゆる角度から物事を見るハイルの見識と触れ合ったことで、ルイゼは自身の世界がもっと大きく広がったような、そんな気がしたのだ。


 ハイルと言葉を交わすことで、ルイゼもまた、暗黒魔法という未知の魔法に近づくことができた。

 ひたすら恐れていただけでは気がつかなかっただろう、真実に。


失われた文明ロストテクノロジーの魔道具には、例外なく魔術式がありません。では、どうやって動くのか。そう考えたとき、ハイル先生はひとつの推測を思いつきました。あれらは、頭の中に描く魔術式によって作動しているのではないか――と」

「おもしろい話だ」


 セオドリクは微笑んだが、その目は笑っていない。

 ルキウスが付け足した。


「推測を裏づける根拠もある。俺の秘書官に試させたところ、王立図書館の地下室は、組み合わせ次第で入室できる人間が分かれたからな」


 イザックからの報告は、ルイゼも聞いていた。

 エリオットとフレッドの組み合わせでは、フレッドは地下の禁書庫に入れなかったが、イザックとフレッドならば、フレッドは入室できたという。


「魔道具自体に魔術式に類似する仕掛けがあるならば、そんな結果にはならなかったはずだ」


 そう説明するルキウスに、ルイゼは頷く。

 再びセオドリクに視線を戻すと。


「そして魔道具には型があります。魔道具そのもののかたち、使われる魔石、刻まれる魔術式……そのすべてが馴染まないと、魔法という事象は発動しません。古代魔道具には魔石ではなく煇石が使われていますが、この場合も同じです」

「私は気が短いんだ。結論を聞かせてもらえるかい?」

「つまり、型はひとつではありません。暗黒魔道具は、使


 要望通りに端的に伝えるルイゼ。

 しかしセオドリクは一瞬ぽかんとしたあと、声を上げて笑い出した。


「つまり君はこう言いたいのかな。――他でもない、

「ええ、そう言っています。具体的には……」


 ルイゼは首から魔道具を外し、掲げてみせる。

 セオドリクが目を細める。彼が魔道具研究所地下で密造したものとまったく同じ魔道具だと、分かったのだろう。


 だがその中央に嵌る煇石は、すでに砕けている。


「これは研究所地下で押収した魔道具です。私はこの魔道具に祈りました。リーナやお父様、カーシィ卿を蝕むものを取り払ってほしいと。魔道具は私の願いを聞き届けて、三人を回復させてくれました」

「――はははは!」


 ひとしきり笑ってから、セオドリクは血走った目をルイゼに向ける。

 にじみでる殺意に、ルキウスとガーゴインが動きかけたが、ルイゼは二人を目で制した。


 どちらにせよ、ルイゼのことは正気を取り戻したロレンツが守ってくれている。

 距離の開いたセオドリクは、何かしようと思ってもできない。――ひとつの手段を除いては。


「……そんな馬鹿なことが、あるか」


 セオドリクが強く唇を噛み締める。


「あれは人を殺す魔法だ。私に命令されたことで、妻もティアも死んだんだぞ」

「あなたが、そんな風に魔道具を使用したからです。他者に無理やり命令を下し、服従させたから」

「君の言葉が真実なら、私は偶然、人を殺したと?」

「偶然ではありません。あなたの殺意に魔道具は応えた」


 沈黙するセオドリクに、ルイゼは淡々と言い放つ。


「セオドリク。あなたはリーナに言いましたね。暗黒魔法は誰かひとりにだけ使える魔法なのだと。すでにカーシィ卿にかかった魔法は解きました。……それでも信じがたいというなら、次は私を操ってみてください」


 ルイゼは挑発するように、うっすらと微笑む。



「私に自害でも命じてみてください」








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コミックシーモア様にて、コミカライズ第2話の先行配信が始まりました。

とっても素敵な漫画ですので、ぜひぜひご覧ください。



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