三
彰に依存されて俺の生活は一変した。持ち運ぶ荷物が増えたし、俺の部屋には彰の服が脱ぎ散らかっているのが当たり前になった。訓練中だって彰の顔色を窺いエネルギーの補給やら、世話やらをしなくてはならない。そんなDDH紛いのことをしていても、DDGとしての仕事が減るわけもなく、ただただ負担だけが俺の体に降り積もっていく。極めつけにはヘトヘトになりもう泥のように眠ってしまいたい訓練後の俺のベッドを、当たり前のように彰が占拠しているのだ。そして今、目の前で子供のように駄々をこね喚く彰にどうしたらよいのか見当もつかず、お手上げ状態なのである。
「なあ、彰、俺はな」
「うるさい!!」
「……俺は仕事に行くからな。誰かDDHに声は掛けておくから」
「駄目!!」
「じゃあっどうすればいいんだよっ!!」
「……うるさい!!」
要領を得ない彰とのやり取りに思わず声を荒げてしまう。DDH曰く、体調が悪いと更に我が儘にそして難解になるらしい。布団にくるまり俺とは顔も合わさずに悲鳴のように叫ばれるだけでは、俺には何もできないのである。これが飛行甲板だけでなく格納庫まで持っている者であったら、何かしら解決の糸口が見えるのやも知れないが生憎俺には格納庫がない。
「彰、俺はDDHじゃないから言われなきゃ分からないんだ。お前だって言えない訳じゃないだろ?」
「…………」
「彰?」
急に布団が静かになる。恐る恐る捲ってみれば目を閉じた綺麗な顔があった。
「……寝たのかよ」
先程まであんなに騒いでいたのに、いや寧ろ騒ぎ疲れたのだろうか。彰は余程深く眠っているのか、ピクリとも動く気配はない。これはチャンスだ。【いせ】に交代して山のように貯まった仕事を片付けにいこう。そっと音を立てないように襖を開ける。自分の部屋でこんなにコソコソしなければならないとは今までは考えもしなかった。自分の体が出ていくだけの隙間から廊下へ滑り出る。すうっと襖を閉めたその瞬間だった。
「こんごう!!」
鋭い悲鳴のような声で俺の名を呼ぶ。
「勘弁してくれ……」
絶望と共に吐き出された言葉はこれから幾度となく繰り返されることになるのだった。
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