【31時間目】魔王様、いざ突撃のお時間です‼︎


「ところで逢魔様、漫画とかでよくある急な回想シーン&シリアスシーンのぶっこみをわざわざ踏襲とうしゅうしてるとこ悪いのですが着きましたよ。目的地」



ああ、いつの間に着いてたのね。

てかシリアスシーンも回想シーンもぶっこんだっていいじゃん。うしお◯とらとからそういうのが魅力なんだから。


それにしても。

やけに鬱蒼うっそうとした森森を抜けた先にこんな立派な武道場があったなんて知らなかったよ。


旧校舎があるって話は前々(入学式あたりから)知ってたけどこんな施設も併設されてるとは思わなんだ。


僕らは制服についた雑草を振り払ったり道中つっかかってきた世紀末的なモヒカンを捨てt…逃したりしながらくだんの武道場入り口の前まで来ていた。

生徒会室の荘厳そうごんな扉とは打って変わってここの扉はドラマとかでよく蹴破けやぶられる扉とそう相違ないぐらいチープに見える。


まあでもこう見えても鉄製の門扉もんぴには変わりないだろうから力づくで中に侵入するなんてできな……


すっ───────



「さぁさっさと終わらせてティータイムにでもしましょうか」



いや開いとるんかい。

…開いとるんかいっ!!


どうしたのここの不良たちは!?

頭の中までモヒカンになっちまったんでい!?

ずいぶん管理がズサンですけど大丈夫なんですかね!?これじゃあどうぞ中に入ってくださいと言わんばかり─────



「!!……聖良伏せろッ!!」



刹那せつな、僕はそう叫ぶとともに地にふせた。


よくよく考えれば分かることじゃないか──!!


数時間前に生徒会室に入っていく僕らを見て、その後そいつらの一派が今問題の渦中かちゅうにあるここに向かってきたとならば────



迎え撃つ……っっ!!



連中はこの武道場を死んでも死守するだろう。

なにせこの名門進学校、至る所に世界から集められたりすぐりのエリートがいる学校だ。

そんな学校に着いて行けず落ちこぼれたとなれば───その流れ着いた安住の地、手放すわけにはいかない……っ!!


僕らが伏せた矢先、数十発に登る破裂音と閃光が瞬く間もなく炸裂し、視界を煌々こうこうと照らした。

案の定、連中は火薬を使って僕らがまんまと美味しいチーズの匂いに釣られてくるネズミを始末するネコのように虎視眈々こしたんたんと狙っていたのだ。


やりやがる────ッ!


僕は閃光と破裂音が僕らを包み込む前に門扉の後ろに素早く転がり込む。


僕の数歩先に行っていた聖良のことは心配していない。

彼女は僕よりも腕っぷしも能力も強い。

それにいつだって冷静沈着れいせいちんちゃくで間違った選択はしない。


だが、彼女はいつだって僕を優先する。

彼女の心が乱れる時は常に僕が関与している。

いやなんか自分で言うと恥ずかしいわこれ。


ともかく、彼女の平静さを失わさせる訳にはいかない。

僕は乱れる呼吸を整えるために一つ、深呼吸を混ぜると「聖良僕は無事だっ!」と今できる最大音量の声で安否を伝えた。



しばし収まらなかった破裂音と光線が止むと同時に僕は反抗はんこうのため今度は門扉の内側に素早く転がり込んだ。

と、同時に今度は僕が聖良の安否を確認しようと辺りを見回す。


聖良は───………ッッ!?


僕は愕然がくぜんとした。

聖良は────僕の言を聞いてなかったのか──伏せるどころかその場に立ち尽くしていた。


視線を上げられない。

上げたら最後、もしかしたら────なんて悪い想像だけが僕の脳裏を支配する。



「せ、聖良……?」



だがいつまでもその場に隠れてはいられない。

連中、否、敵は未だ健在で常に僕をロックオンしている可能性があるからだ。


僕は覚悟を決めるとその場に立ち尽くす聖良を見上げ──────ると、聖良の頭や肩にはキラキラと光るテープやカラフルな紙がそれはもう見事に、まるで新幹線の開通式の如く染められていた。


ついでに本人の頬も染まっていた。

え?何が起きたんすか?



「はいどーもおこしやす〜〜俺らの聖域メッカへ………ん?」



突如、武道場の奥から70年代のアメリカのヒップホッパーみたいなカラフルに染めたアフロを揺らしながらやたらガタイの良い男が出てきた。


相変わらず状況がうまく飲み込めない僕を尻目に聖良は肩や頭にかかった紙やビニールテープをぺりぺりと投げ捨てて行くと一つ呼吸をおいてその愉快な男に組みかかった。


それはもう見事な一本背負いで。

どこで習ったのよその技は……。



「あで、あででででっ!ちょっと待ってくれよ!!な、なんであたしこんな……組み伏せられてんのよっ!!」



急なオネェへの変わり身と共に自らの潔白を主張するその男に僕は要らぬ───いや、今だけは必要な推理をし始めた。



「ちょ、ちょっと待ってよ。え?君たちが噂の不良組?どう見ても高ラ見てラップかじったみたいなやつだけど、え?」



すると同じく武道場の奥からそれはもうぞろぞろと、まるでピク◯ンのように大勢の────愉快でカラフルでヴァンキッシュな服装の奴らが出てくる。

どれもこれも生徒会室で聞いたやんちゃ坊主どもとは違うような気が………



「ちょ、ちょっとなんスカあんたたち。いきなり現れてストレイドッグ大田おおたさんに組みかかって……さてはあんたらココから立ち退きの命令を伝えにきた生徒会のヤツらだろ!」



「いやまぁ、それはそうなんだけど……え?ちょっと待って。マジで状況がつかめないけど……あ、それはお互い様か……じゃなくて」



とりあえず、なんだろう、ここはお互い落ち着いて話をするのが先決な気がする……!


僕は未だいぶかしげな顔でリーダー格(?)の男を組み伏す聖良をしずめると「ちょっと一旦話をしま……せんか?」と提案した。


なんだか、これは、生徒会の……あの人たちにいっぱい食わされた様な気がする……!!


僕の提案を素直に受け入れてくれたヤンキー(素直に提案受け入れた時点でヤンキーじゃない様な気もする)たちと僕らはそれはもう見事な輪になって武道場の中央に座するとお互いの───話をし始めた。



☆思わぬ展開、不良とはいかに─────



───────────────────────


【登場人物紹介】


●躑躅森 逢魔


魔王の息子で主人公。

唐突に始まった戦闘描写に困惑しつつそれに寸分違わぬ動作で応対するあたり、戦闘力は高い。

ただ戦闘力よりはツッコミ力の方が高い。

いいのか、それで。



●躑躅森 聖良


逢魔の幼馴染でお付きのメイドさん。

扉を開けた瞬間それはもう誕生日を迎えた人の様にクラッカーやらなんやらを浴びせられてさすがに冷静さが売りのこの人も固まった。

その後迅速に組み伏せたあたりは優秀か。

ほんとか?



●70年代ヒップホッパー


高ラ見てラップかじったやつらに見えてふくそうは70年代ヒップホッパーとかいうあべこべなやつら。

まあ学校に着いて行けず頓挫してしまった連中のオチとしてはまあまあか。

ちなみにラップはヘタ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王様、復活のお時間です‼︎ 二葉 夏雨 @futaba_tsuyu20

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ