【30時間目】魔王様、初仕事のお時間です‼︎


都会から少し離れた田舎。

そこには普段コンクリートと生暖かい風に吹かれる事はなく、代わりに草木の青グサさと清涼な風が疲れた人間をいやしてくれると言う。


僕のいた世界───メイベルには都会と田舎という区分ができるほど技術が発達している訳では無いので事実、そういった"違い"というものは分からない。

ただ、少なくともこの世界にやって来た今の自分をかんがみるとその違いというのは分かってきたかもしれないと思う。


まあ未だ作中の時間軸的には1ヶ月経ってませんけどね。

びっくりするでしょ。うん。僕もびっくりしたもん。遅いよねホント。ア◯ギもビックリだよ。



それはさておき、僕がなぜ今こんな謎の入り方をしたというと────



「なんじゃテメェやんのかこらおい!!」



「いや……その、はい……すんません……」



絶賛この自然あふれる旧校舎にたむろっている今時時代遅れなこてこてのヤンキーに絡まれているからである。

いやあ自然って、良いよね。

その景観を損なう要素さえなければ……ね。


僕は長いリーゼント(長すぎて恵方巻きみたいになっちゃってるけど風呂とかどうしてるんですかね?)を避けながら「すみません。ちょっと通りますね」と一言かけるとさっと横を通り過ぎて行った。


もちろん、こんな雑な絡み方をしてくる時点でタダでは通してくれないと思うので魔王の力をもちい、文字通り目にも止まらぬ速さで駆け抜けたのだが───



「逢魔様。こんな使い捨てなキャラに情なんてかけなくても大丈夫ですよ」



何事もなく通り過ぎれたかな?と安心した矢先、僕の幼馴染で付き人でもある躑躅森 聖良の手刀がそのヤンキーの首に入っていた。

無論、ただの人間が魔族の──それも聖良のパワーあらがえるスベもなく、ただ無力に倒れていくのであるが……。



「ちょっと!?殺してないよね!?やめてよこのラノベ一応謎のバトルタグついてるけどあくまでギャグラブコメなんだから殺しとかやめてよ!?」



「いえ。ちかって殺しはやってません」



「いやそれ平気で拳銃で撃ち抜いたり、ヒートア◯ションでビルから人投げ捨てる人のセリフっ!!いっちゃん信じられんやつっ!!」



持ち歌が謎の海外ミームを生んでそうなボケへのツッコミはここらにしといて……。


僕らは数十分もかけてここ、私立黒瀬川学園の旧校舎にある武道場に来ていた。

「え?急になんでこんなとこ来たん?」って思ったり「旧校舎ってなんだよ。急に変な施設出すなや」と皆さまは文句をおっしゃりたいと思うが、それについての説明は僕の過去(つい数時間前)にあるので、その回想に少しだけ付き合って欲しい。


きっかけはもちろん、生徒会絡みなのだが────



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「え?旧校舎の武道場きたむろってるヤンキーを一掃してほしい?」



時間はだいたい冒頭の下りから数時間前。

僕らが生徒会の(忠実な下部組織である)I・O・C団設立にともない、その入部届けと部活動新設願いにそれぞれサインを書いていた時だった。


生徒会長から急に「では早速だが最初の仕事だ」と言われ、「はいはい何でもしますよ」と二つ返事をした後に返ってきた内容に思わず僕も聞き返さざる得なかったワケだが……。



「んお〜〜そーそー。最近さぁ旧校舎の武道場にガッコの勉強だったり、行事だったりについていけなくなったアホどもが徒党ととうを組んで荒れてるらしいのよ〜〜」



密華生徒会副会長が口に含んだロリポップをもごもごと堪能たんのうしながら補足してきた。

学校に関係のないマンガや雑誌が乱雑に散らばる机の持ち主のセリフだとは思えないが、どうやら言ってることは事実らしい。


逸華生徒会会計・書記もそれに追従ついじゅうする形で密華副会長とはうってかわって書類と本しかない机の上をがそごそとあさる手を休めず付け足してくる。



「この学園は名門進学校とは銘打めいうってますがその実、学園長のスカウトによって入学した生徒が大半なので自分が望んだ進学ではなかった者も多く……まあ多くは語りませんがそういった方たちが挫折ざせつした結果、こういった現状におちいった、というところですかね」



「故に」と咲葉会長が2人のげんに乗せ、改めて僕らへの依頼もとい初仕事を宣告する。



「キミたちにはその不良生徒たちをどんな手段を使ってもいい、せめて普通の一般生徒に戻してやってほしいのだ」



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と、まあこういった前話があったワケで────今こうしてここに来ているのだが……。



「そもそもこれどっからの依頼なのよ……。絶対学園長かなにかの上層部の保身のための話でしょ……普通の生徒が『わぁ〜〜普段全く使わない旧校舎の武道場にヤンキーがいっぱい溜まってて怖い〜〜〜見かけた事はないけど被害が出てるのでどうにかしてください〜〜』なんて言うかね?」



今になってわいてくる依頼内容の"ありえなさ"に対しての激憤げきふんを僕がグチると聖良はさっき仕留めt……気絶させたヤンキーをぽいっと雑に投げ捨てると(ちょっと!?)一つ、ため息をついた。



「仕方ありませんよ、逢魔様。逢魔様が"あの方法を使わない"と決めたからには能力持ちである生徒会の皆さんの言うことにさからわない方が吉ですよ」



「それもそうだけどさぁ」と反論したくなる口を後一歩のとこで僕は閉じると、聖良に言われた"あの方法"について話した日のことを思い出す。


今回、回想ばっかで申し訳ないけど付き合ってね……。



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「逢魔様。手っ取り早く力を取り戻す方法、確かにありますよ」



コーヒーを一口すすりながらどうやって能力を取り戻そうか画策かくさくして頭を悩ませる僕に対して聖良がある提案をしてきた。


時間的には僕らがこの世界にやってきてちょっと経った後の夜だった気がする。

いつものように『これからどうやって力を取り戻していくか』の相談をしているときにふと、聖良が言い出した提言である。


「え?なによそれ?」と全くもって普通のリアクションをする僕に聖良は片手のコーヒーカップを机におくと、こちらに向き直り姿勢を正した。


どうやらよっぽどの提案らしい。

自然と僕の背筋も伸びる。



「現時点で能力持ちの方と接触できているのは僥倖ぎょうこう、といったところです。が、しかし、その方たちが素直に力を返してくれるとは限りません。ただでさえ逢魔様の固有魔法は強力ですから、それを悪用しようと思う物も絶対に居ないとは言えませんからね」



すぅと深呼吸を一つはさむ。

緊張で静まり返った部屋に隣人の生活音すら聞こえてきそうなその静閑せいかんな空間に思わず僕はせきでもしてやろうかという思いすらよぎる。


だがそんな悪行を敢行かんこうするよりも早く聖良が次の言葉を発した。



「………殺すのです」



「え?」



僕の些細ささいなイタズラ心が一瞬で冷凍保存されると同時に聖良から発せられたその物騒ぶっそうな言葉が今度は僕の心を沸騰ふっとうさせる。


え、殺す?

一体誰を?どうして?

それがどう僕の力を取り戻すことに繋がるの?


沸騰ふっとうと共にふつふつといてくる疑問をどう聞こうか整理する前に聖良がその答えを持ち出す。



「能力持ちと判明した人を1人ずつ殺していけば自ずと力は逢魔様に戻ります。ので───手っ取り早い一つの手段としてこれが───」



「ダメだよ聖良。それだけはやっちゃいけない」



どう言葉をつくろうか考える前に反射的に僕は反対した。



そう。

殺しなんてやってはいけない。

これは僕らの世界の問題であり、この世界の人間には無関係であるのだ。


言うならば彼女たちは被害者で、僕らは加害者でもあるのだ。


例え、それしか方法が無くても、命をうばう事はあってはならない。



「殺しはやっちゃダメだ。それをするなら僕は僕の固有魔法を取り戻すことをあきめるよ」



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と、まあこんな感じな会話がちょっと前にあったワケだが。

しかし今は前々から推察すいさつしているようにこの世界に犯人がいるかもしれないという懸念けねんがある。


だから今は───なんて言いたくはないが、ソレが必要となってくる・・・・・・・・・・・かもしれない。


その時、僕は──────



☆逢魔はもはやただの魔族ではない。彼は一国を背負う魔王なのだ!──────



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【登場人物紹介】


●躑躅森 逢魔


魔王の息子で主人公。

普段アホなことばかりやっているが考えなければならない事はちゃんと考えているコ。

それに魔王に似つかわしくない優しさを持っている。



●躑躅森 聖良


逢魔の幼馴染でお付きのメイドさん。

目的のためならば手段を選ばない冷徹さが見え隠れするが実はそれは逢魔への愛情の裏返しだったりする。

まあいってみればヤンデレってやつ。



●私立黒瀬川学園生徒会のみなさま


メンバーは会長 黒瀬川 咲葉を筆頭に変t…自由奔放な副会長 二葉亭 密華、真面目が服着て歩いてるような会計・書記 逸華の3人。

ついに自分たちのてあs…信頼できる後輩ができたので早速使いっぱs……仕事を頼むなんとも後輩思いな先輩たちである。


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