私の章
1
私の名前は仙道紅音、幼いころからちやほやされ、周りにもたくさんの人がいた。家は中流階級のど真ん中といった感じだった。
習い事も、水泳と、書道をやっていた。
いわゆる、恵まれた環境に育ったのだ。
中学生に上がると、最初は女子の友達がたくさん出来た。毎日が楽しかった。
しかし、だんだん男子から声をかけられるようになっていった。
自分では思わなかったが、どうやら私は、容姿が他の女子と比べて、よく見えていたみたいだ。2年、3年と進むにつれて、同級生はもちろん、下級生や、高校生の男子からも声をかけられるようになっていた。それに反比例するかのように女子の友達が居なくなっていった。
高校に進学した私は最初、孤独だった。
相変わらず男子から声を賭けられるのだが、女子の友達が1人もいない。
しかし、唯一声を賭けてくれた女子がいた。ただ、3年生で、すぐに卒業していったが、それは、いろいろ話をした。
そしてまた孤独な学校生活が続いた。
4年生の大学に進学し、少し周りの雰囲気が変わった。
それは、男子からあまり声を賭けられなくなったのだ。女子からもである。私に近寄りがたい雰囲気でもあったのかな?
でも、その時は、もう寂しくは無かった。
大学では、ゼミもサークルもあまり参加しなかった。
4回生になり、比較的早めに中堅のゼネコンの内定をもらった。
特に、ゼネコンで何がしたいという夢は無かったが、この会社でなければならなかったのだ。
2
配属された部署は開発部だった。この会社では、花形の部署らしい。
配属され、間もなくコンサルの会社との合同プロジェクトのメンバーに選ばれた。おそらく雑用係だろうが、私は相手の会社の”凪隼人”と言う人の下に付いた。
仕事のよく出来る人だった。人を使うのも上手く、あぁ、こういう人が上に立つ人材なんだろうな、と思った。
凪隼人とは、すぐによく話すようになった。と言っても、仕事の話がほとんどだが。
そんなある日、私は、凪隼人から食事に誘われた。男性から誘いを受けるなんて何年ぶりだろう?
私はすぐに承諾の返事をした。おいしい居酒屋さんだった。特に魚の煮つけが絶品だった。
凪隼人が選んだ店だった。常連だと言っていた。小ぢんまりした店で、店主とあとかわいらしい女の子のアルバイトがいた。
凪隼人と仕事以外の話をゆっくりするのは初めてだったが、話を重ねるごとに違和感があった。話の本質が見えてこないし、内容が頭に入って来ないのだ。多分この人は本質的に嘘つきだ。嘘と本当を上手く入り混ぜながら話をしているのだろう。
その後も度々誘われたが、1度も断らず食事を共にしていた。それは、プロジェクトが終わってからも続いていた。
ある日、凪隼人は、店主とアルバイトの子に責められていた。いつまでたっても、私に告白しない事を。
私の方から「凪さんからの告白を待ってるんですよ。」と言い、そのまま付き合う事になった。
「実は、君を真っ先に紹介したい奴がいるんだけど、いいかな?」と凪隼人が言って来た。
中学の1つ下だけど親友の君島頼人と言う人だった。彼とも3人でよく食事に出掛けるようになっていった。
それから間もなく、私にしつこく言い寄って来る男が現れた。名前は矢代雄大、彼は執拗に迫って来た。
しかし、私たちの交際は順調で、誰から見ても幸せなカップルに見えただろう。ただ、仕事がやりにくくなってはいけないという事で、お互いの会社には内緒にしていた。
だからか、矢代雄大の誘いは、ますますエスカレートしていった。
前回のプロジェクトから2年経った頃、会社拡張に伴うプロジェクトのリニューアルが行われ、また、凪隼人が会社に来るようになった。
今度は、あの矢代雄大もプロジェクトチームに加わった。
矢代雄大は、与えられた仕事はこなしていたが、自分からは、提案すらせず。凪隼人の方ばかり睨みつけていた。凪隼人も気付いてるみたいだった。
そんなある日、私は凪隼人といつもの居酒屋にいた。
凪隼人は、忘れていたようだったが、矢代雄大は凪隼人の中学の1つ下の後輩だった。
矢代雄大は、中学時代、君島頼人をいじめていたそうだ。当時不良だった凪隼人が仲裁に入って、いじめは止んだが、今度は矢代雄大がいじめの標的に変わって行ったらしい。その後、高校でもいじめは止まなかったと。
凪隼人は、一度、矢代雄大を説得すると言って、呼び出したが耳を持たなかったらしい。私と凪隼人が付き合っているのも、ずいぶん前から知っていて、嫌がらせをしていたみたいだ。
今度は、私が矢代雄大と話をする事にした。
凪隼人の時と同じで、何を言っても聞く耳を持たなかった。最後に、君島頼人の話を持ち出すと「うるさい!」と言って、話を終わらせた。
翌日、矢代雄大は辞表を提出したらしい。
いずれにしろ、私たちにばらされたら、ただでは済まなかっただろうが。
3
数日後、プロジェクトが終わると、改まった感じで凪隼人に誘われた。しかも、ちょっとしたレストランでと言う。私は、いつもの居酒屋でいいのでは?と言ったが、ちょうどプロジェクトも終わった事だし、たまには、という事だった。
食事は素晴らしく美味しかった。
会話は、矢代雄大の事もあり、一時はどうなるかとか、またいつもの嘘か本当か分からない話で終始した。
突然凪隼人が黙り、暫くの沈黙が出来た。
指輪をテーブルの上に置き、「結婚して下さい。」とプロポーズされた。
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