短編1

 『女将さんは最強です』



 私たちが現在、拠点を置いている宿赤毛亭の女将さんは時々、冒険者よりも強いのではないかと思う時がある。

 先日、私たちが依頼から帰ってきたとき、宿の食堂は少し騒がしかった。何が起きたのか気になり、近くにいた冒険者の男にに聞いてみた。


 「なんでこんなに騒がしいんですか?野次馬も多いみたいだし……。」

 「ああ……、詳しくは分からんが、最近この街に拠点を移した新参者の冒険者が宿の従業員にちょっかいをかけたらしい。」

 

 男の向ける視線の先には、大柄の男どもが複数人で従業員の女の子に絡んでいた。


 「なあ!少しくらいいいだろ!こっちきて相手しろよ!」

 「さっさと尻を振ってれば良いんだよ!」

 「ぎゃははは!!!」


 そんな下品な会話が繰り返される。


 私の近くにいた冒険者の男は青ざめた顔をした。何かに怯えるような顔つきでボソッと言った。


 「あいつらは終わりだ……。俺も巻き込まれないうちに……」


 「ちょっと。それどーいうこと?終わりって……!」


 私が答えを聞き出す前に、正解の方から自ら現れたのだった。


 「あんたたち、一体何やってんだい!!」


 そう。女将さんである。女将さんは状況を理解できたようで、男共を睨みつけ、


 「あんたら、うちの従業員にちょっかい出すなんて良い度胸じゃないかい!」


 「あぁ!うっせーぞ、ババァは引っ込んで

 ヴェボオロ!!」


 気づいたら、男は吹っ飛ばされていた。

わたしは理解が追いつかない。


 「たくっ、こんなんも防げないようなら、先が知れるね、まったく。」


 女将さんは吹っ飛ばされた男を見て溜飲を下げた。


 「今、な…何が…?」


 「お嬢ちゃん知らないのか?女将は元はS級冒険者だったんだぞ。結婚を機に引退を決めたらしいが、実力はまだまだ現役並みだ。」


 


 「え……、S級冒険者ぁぁぁぁ!!!」



 近くにいた冒険者が説明してくれたが、私には何が何だかもう……。


 唯一わかるとすれば、女将さんには逆らっては行けないということだろう。

 意外なところに最強はいたのだった。



 

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