第4話
次の日
「すぅー、すぅー、すぅー、ん、んにゃ」
「ふわー。」
しおりは眠そうに閉じられていた目を擦り、時計を確認する。時計の針が刺し示しているのは、午前の10時だった。
「うわー!シルヴィア、起きて起きて!」
「何よ騒々しいわねぇ。」
「完璧に寝過ごしてるよ!晩御飯も朝ごはんも食べれてないじゃん!」
そう言われて、シルヴィアはやっと状況を理解できたみたいだ。羽をバタバタさせ、慌てている。
「ちょっとまずいじゃない。とりあえず食堂に行って、朝ごはんが食べられないか聞いてみましょう。」
「それはいいけど、シルヴィアは何食べるの?虫?」
しおりにそう言われて、思い出した。今のシルヴィアはただの小鳥なのだと。神界では人として食事をとっていたが、今はどうすれば良いかわからない。慌てふためくシルヴィア。
しかし、使役獣はテイマーの魔力によって体が維持されるため、食事を取る必要はない。しかし、それに気づくのはだいぶあとだった。
##
とりあえず慌てているシルヴィアを部屋に置いて、しおりは食堂に降りていった。
「すいません。もう朝食わ食べれませんか?」
昨日のおばちゃんにそう言った。するとおばちゃんは、
「ぐっすりと寝ていたみたいだね。夕飯の時間になっても降りてこないから、部屋まで呼びに行ったのだけど、返事がないから心配したよ。」
そう言われて、すこし申し訳なくなる。
「すいません。思ったよりも疲れてたみたいで……。」
「別に構やしないよ。今日の朝食はパンと野菜のスープだよ。今から食べるかい?」
「はい」
しおりが椅子に座ると、パンが2つと暖かいスープが出てくる。
「いただきます。」
しおりは半日ぶりに食べる食事に手が止まらない。パンはふんわり柔らかく、小麦の甘さがしっかりと感じられる。スープはベーコンの塩気が野菜の甘みを引き立てて、いいアクセントになっている。
しおりは一気に食べ進め、ものの10分で完食した。
「ごちそうさまでした!女将さん、すごく美味しかったです!」
「そんなに美味しそうに食べてもらえるとこっちも嬉しくなるよ。しかし良い食べっぷりだったね。わはははは!」
しおりはいくらお腹が空いていたとはいえ、少しがっつきすぎたと恥ずかしくなった。
しかし女将さんは嬉しそうに笑い、こんなアドバイスをしおりにしてくれた。
「あんた、Eランクだろ?ギルドで薬草採取依頼でも受けな。初心者はそこからスタートだよ。いきなり高い依頼を受けて、死んだら元も子もないからね。命あっての物資だよ。」
「教えてくださりありがとうございます。コツコツと頑張っていきたいと思います。」
しおりの答えに満足したのか、女将さんは厨房に片付けに行った。
##
しおりは部屋で唸っているシルヴィアを連れてギルドへ向かった。受付に行くと昨日担当してくれたマリーさんがいた。
「おはようございます、しおりさん。依頼を受けますか?」
「おはようございます、マリーさん。薬草採取の依頼ってありますか?」
「薬草採取は常設依頼なので、採取したものを持ってきてもらえると、買いとりいたします。一株で100ゴールドからの買い取りですね。」
「わかりました。早速行ってきたいと思います。」
「行ってらっしゃいませ。」
しおりは門でギルドカードを見せ、近くの草原へと向かう。
「シルヴィア。あなたは休んでて良いわよ。鑑定を使えば、すぐに出てくるでしょう。」
「そうね。でも取りすぎもダメよ。鑑定は珍しいスキルなんだから、目立つわよ。」
「わかってるわ。」
しおりが鑑定をかけていく。すると、薬草と思わしきものがいくつも出てきた。
・回復草
下級ポーションの原材料
しおりは5株ほど採取し、次を探しに少し離れたところに向かう。するとそこでも、5株採取することができた。
#5時間後#
しおりは計30株の採取に成功していた。
これで最低でも宿2日分の報酬になるため、しおりは嬉しそうだ。
「結構取れたわね。今日はここら辺で帰りましょう。しかし、アイテムボックスって便利ね。なんでも入るし、今のところ容量に限界がないし。」
そう言ってしおりは帰るために門に向かって歩き出した。
しおりは嬉しそうな顔で採取した薬草をみつめていた。それを見てシルヴィアは少し不思議に思った。
「随分とうれしそうね。そんなに良いことあった?」
「ええ。自分の手で一から全てやった達成感みたいなものを感じているのかもね。日本では、自分が頑張った分がそのまま自分に返ってくることはそんなにないから……。
だから、頑張った分だけ直接返ってくるのは嬉しいのよ。」
自分の努力が全て自分に返ってくる。冒険者の仕組みはしおりにとって、とても向いているものだった。
#冒険者ギルド#
「ただいま帰りました。薬草採取の依頼なんですけど、これをお願いします。」
そう言ってしおりは今日とってきた薬草をアイテムボックスから出した。
すると、マリーさんは目を丸くして固まっていた。
どうしたのだろうか?しばらくしてマリーさんが動き出した。
「しおりさん、アイテムボックス持ちなんですか!?相当珍しいのに!」
「ええ。あんまり大ごとにしないでもらえますか。面倒ごとに巻き込まれたくないので……。」
「っ!失礼いたしました。しかし、アイテムボックス持ち出すと、報酬の良い依頼が用意できることもありますので、ギルド長にはお伝えしてもよろしいですか?」
そう言われてしおりは考えた。今の報酬だと今後のことも考えると少し心許ない。しかし、ここで下手なことになると、面倒ごとに巻き込まれるリスクが上がってしまう……。
色々と考え、しおりが出した結論は…
「構いません。けど、報告するのはギルド長だけでおねがいします。」
しおりは今後のことも考え、多少のリスクは仕方ないことだと結論を出した。
「もちろんです。しおりさんの個人情報はしっかりと守りますので、安心してください。
それでは薬草の方も見させてもらいますね。ふんふん……。取り方も綺麗で葉も傷んでいません。これだと、一株250ゴールドでの買取になりますが、よろしいですか?」
「はい。それでお願いします。」
「それでは、お金をお持ちしますので少々お待ちください。」
思っていたよりも高く買い取ってもらえてしおりはホクホク顔だ。
「お待たせいたしました。報酬の7500ゴールドになります。」
「ありがとうございます。明日もまたきます。あと、さっきの件よろしくお願いしますね。」
「承知しました。またのご利用をお待ちしております。」
そしてしおりは宿の女将さんに3日分の宿代を払い部屋に戻った。
そして美味しい晩御飯を食べ、ベッドに飛び込むと沈むように眠ってしまった。
「おやすみなさい、しおり。明日もがんばりましょうね。」
こうして、冒険者生活の1日目が終了したのだった。
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