第3話

  二人は街道をゆっくりと歩いていた。

シルヴィアの勘にしたがって、歩き始めたは良いが二時間たったいまでも、誰ともすれ違わなければ、街の影すら見えない。 

 時間が経つにつれ、段々と2人の表情も険しくなっていく。そしてついに、我慢できなくなったシルヴィアが言った。


 「なんで街に着かないのよ!しかも、誰ともすれ違わないなんて、あり得る!?2時間は歩いているのよ私たち!」

 「なんであなたが文句いうのよ。あなたがこっちであってるって言うから、歩いていたじゃない。」


 そんなしおりの発言にシルヴィアは言い返すことができず、口をつぐんだ。

 

 「でも、だからといって誰ともすれ違わないなんておかしいわ……。」


 そう。しおりは何か違和感を覚えてていたのだ。でもその違和感が何かあとちょっとでわかるはずなのにわからない。

 少し気分転換しようと辺りを見渡した。すると3メートル先の地面に何か赤いものが見える。しおりが近づいて確認すると、それは先程しおりたちが倒した、アングリーボアの死骸だった。


 「シルヴィア!私たち歩いていたのに何故かさっきのとこに戻ってきているわよ。」

 「?!」

 

 なんで戻ってきた?街道に沿って歩いていたから迷うことはないはず…。 

 しおりはひたすら考える。色々な可能性を探っていると、シルヴィアがふと呟いた。

 

 「幻惑草かもしれないわ」

 「何それ?」

 「幻惑草は特殊な匂いを出すことで、人に幻惑を見せる植物よ。森の中でその草のせいで道に迷って、出てくることができなくなる人もいると聞くわ。」

 「それのせいで、真っ直ぐに歩いていたつもりでも、そこら辺をぐるぐる回っていたかもしれないのね。対処法は?」

 「幻惑草の本体を引っこ抜くしかないわ。」


 そう言われて、しおりはその草を探す。しかしどれが幻惑草か見分けがつかない。するとしおりはふと閃いた。

 『鑑定』


 あたり一面を鑑定し幻惑草を見つければ良いのだと。


 ・草

 ・草

 ・草

 ・草

 ・幻惑草

 ・草

 ・草


 「あった!シルヴィア!」

 「任せなさい!『ファイアーボール』!」


 手のひらサイズの火の玉が飛んでいき、幻惑草を燃やし尽くした。

 すると、もやのようなものが現れて散っていった。


 「これでもう大丈夫ね!」


 シルヴィアは安堵の表情で言った。しかししおりは少し顔を険しくした。少しばかり異世界に来てテンションが上がっていたからとはいえ、考えなしだったと反省する。この世界は日本よりも弱肉強食が徹底されており、自分を守れるものは自分しかいないのだと感じた。

 

 「少し考えが甘かったのかもしれないわね。シルヴィア、これからこういうことがまたあるかもしれない。お互いに気をつけていきましょう。こんなことで命を落とすのはもったいない。」

 「ええ。分かったわ。慎重にいきましょう。」


 



 ##





 先程と同じ街道を歩いている2人。今度は1時間ほどで街の外壁が見えてきた。およそ10メートルくらいだろうか。石造の大きな外壁で、街の周りをぐるっと一周している。


 2人は街の門に着いた。そこでは門番が身分証のチェックをしていた。しおりたちも街に入るため、もんばんのちぇっくをうける。


 「次の人どうぞ。身分証を出していただけますか?」

 

 門番にそう言われたが、しおりはこの世界での身分証は持っていない。なので、作り話で誤魔化すことにした。


 「小さな村の出身で身分証を持っていません。」

 「わかりました。では、こちらの水晶に触れてください。これで犯罪歴を調べます。」


 しおりは言われた通りに水晶に触れた。すると水晶は青く光った。


 「犯罪歴はありませんね。では、身分証がないので、300ゴールドの支払いをお願いします。しかし見た感じ、お金がないようなので、仮身分証を発行します。これをギルドにもっていってください。ギルドが料金を肩代わりしてくれます。冒険者ギルドなら名前と職業を記入すれば、身分証を発行してくれます。ギルドは大きな通りを真っ直ぐ行った右手にありますので。説明は以上になります。」

「ようこそ、グリモアの街へ!」



 

 ##



 「ねえねえしおり。早速おいしいものを探しに行きましょう!」


 シルヴィアはお腹が空いているようで、何か食べたいみたいだ。しかし、まずはギルドに行って身分証をもらわなければいけない。


 「まずはギルドに行くわよ。身分証がないとこの先面倒なことになるかもしれないしね。」

 「それもそうね。行きましょうか。」



 門番に言われた通り、大きい通りを歩いていると、剣が2本クロスしている看板を見つけた。


 「入るけど。シルヴィア、喋っちゃダメよ。この世界でもしゃべる動物は珍しいんでしょ?あまり目立たないようにしないと。」

 「そうね。」


 そう言ったことを確認しつつ。2人は冒険者ギルドの中に入っていった。

 ギルドの中は落ち着いた雰囲気をしていた。昼過ぎなので、混む時間帯ではないのだろう。受付には数人の女の人が座っていた。

しおりは一番近いカウンターに向かった。

 そこには、栗色の髪をした女の人が座っていた。しおりが近づくと、その人は微笑みながら言った。


 「ようこそ冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 「えーと、身分証が欲しいんですけど、門番の人からこれを渡せと言われました。」

 「はい。確認いたしました。それではギルドカードを発行いたします。必要事項をこちらの用紙にご記入ください。」


 

 しおりは言われた通りに書いていく。書きおわり、受付嬢に渡す。


 「こちらをお預かりいたしますね。発行までに少しお時間がかかりますので、その間に冒険者ギルドの説明をしたいと思います。」


 「冒険者ギルドは国や街、個人の依頼などを受け付けて、それをギルドに登録している冒険者の方々に仲介する組織です。 

 依頼は冒険者ランクごとに分かれており、ランクはE級〜S S 級まであります。」


 SS 万単位の魔物を蹂躙する力を持つ。  単独で国を落とせる。人外。

 S 竜を単独で討伐できる。

 A 超一流冒険者

 B 一流冒険者

 C 中堅

 D 一人前

 E 駆け出し冒険者



 「しおりさんはE級からのスタートになります。」

 「わかりました。肩代わりしてもらったお金はどうすればいいですか?」

 「依頼料から天引きされるので、心配しないでください。宿代の貸し出しもできますがいかがいたしますか?」

 「お願いします。」

 「かしこまりました。ではギルド直営の宿を紹介させてもらいます。個室一泊2食で1500ゴールドになります。それではこちらが一泊分のお金とギルドカードになります。」


 そう言われて銀貨が1枚と銅貨5枚渡された。銀貨一枚で千ゴールド、どうか一枚で100ゴールドみたいだ。


 「あちらに依頼板もありますので、自分のランクにあった依頼を見つけて、受けたいものがあったら、剥がして受付に持ってきてください。依頼を失敗すると、違約金を払うことになりますので注意してください。」

 「分かりました。今日は宿で休もうと思います。」

 

 しおりがそう言い、受付を後にする。


 「またのご利用をお待ちしております。」




 

 しおりは外に出ると、紹介された宿に向かう。向かうといっても、ギルドのすぐ隣にあるが……。

 しおりが中に入ると恰幅の良いおばちゃんがカウンターに座っていた。


 「あのー、すいません。冒険者ギルドでこちらの宿を紹介されたんですが。」

 「いらっしゃい!聞いてるかもしれないけど、一泊1500ゴールドだよ。」

 

 しおりはギルドから貸してもらったお金をそのまま渡す。


 「1500ゴールドぴったりだね。部屋は2階の一番奥の部屋だよ。これは鍵ね。晩御飯は6時から8時の間に一階の食堂まで来てね。」

 「ありがとうございます。」


 しおりは階段を上り、一番奥の部屋へと向かう。鍵を開け、部屋の中に入るとベッドと小さな棚が置いてあるシンプルな部屋だった。


 「ふぅ、やっと休めるわね。シルヴィア、もう出てきても良いよ。」


 しおりがそう言うと、フードの中に入っていた小鳥が顔を出した。


 「やっと窮屈なところから出られるわ。翼が縮こまちゃったわ。」


そう言いながら、羽を伸ばし体をほぐす。


 「いきなり1800ゴールドの借金よ。明日から早速依頼を受けないと、ご飯にも困るわよ。」

 「そうね。私にもできる簡単な依頼から始めないとね。シルヴィアの力ばかり当てにできないし。」

 「別にあたしを頼っても全然良いわよ。テイマーはきほん使役獣を前で戦わせる職業だもの。」

 「私にとってはシルヴィアは、使役しているっていうよりも、友達って感覚の方が強いからね。友達だけに戦わせるわけにはいかないわ。」

 

 しおりが胸の熱くなるようなことを言うとら案の定シルヴィアが感極まっていた。目をうるうるさせているシルヴィア。


 「嬉しいこと言ってくれるじゃない。そうね。なら、一緒に頑張っていきましょう!」

 「おおー!!」


 しおりとシルヴィアの仲が深まった一瞬であった。そして2人はいつのまにか、ベッドで寄り添うように寝てしまったのであった。

 

 

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