第14話:偽装カップルGWデート④「私も作ろうかな」
私は高校生美少女探偵・涼宮葉月。
幼馴染で同級生の青北洸夜をゴールデンウィークに遊びに誘うも断られ、跡をつけると幼馴染とその彼女のデート現場を目撃した。
待ち合わせの様子を見るのに夢中になっていた私は、背後から近づいてきたもう一人の同級生に気付かなかった。
私はその女に正体を暴かれ、気がついたら──
二人のデートを尾行することになっていた!?
『涼宮葉月がつけていると
一花ちゃんの助言で正体を隠すことにした私は、稲村くんにどうするのかを聞かれて、とっさに、『不審者装備のまま尾行をする』と宣言し、奴らの情報を掴むために、一花ちゃんカップルと一緒にデートの目的地である映画館へと向かうことになった。
ところが、このカップル……。
とんだバカップルで、尾行のことなど放ったらかし。見かねた私はバカップルにかわり、持ち前の行動力で、次々とこーちゃんたちのイチャ付きを写真に収めていった。
おかげで、今や私のスマホにはこーちゃんカップルと一花ちゃんカップルのツーショット写真だらけ。
私はと言えば、相手もおらず、ひとりぼっちで恋愛映画を見ていた。
周りのお客さんには哀れまれる始末。
ではここで、私がもってきた変装グッズを紹介しよう。
最初は麦わら帽子。
いつかの誕生日にこーちゃんが買ってくれたものだ。
映画館の中なのに変装のため外せないから周りの目線がすごく気になる。
次に、サングラス。
ずっとかけていれば、そんな周りからの視線も気になることはない。ただし、スクリーンに映し出される内容は一切見えない。
顔の半分を隠すなら不織布マスク。
ノーズワイヤーと柔らかゴムで鼻にフィット、耳に優しく、三層構造で
飛沫ウイルス、花粉、PM2.5まで防いでくれる。
そして性別を隠すならこの大きなロングコート。
ただし、季節外れだから周りの目線は痛いし、日中は暑くて辛いのが玉にきずだ。
おっと忘れちゃいけない。
私のスマホは超大容量バッテリー内蔵で、いろんなアプリが入っている超優れものだ。
ほかにもいろいろあるけど、一番の武器はやっぱりここさ。
ひとりぼっちになっても行動力は同じ。
彼氏なしの名探偵。真実はいつも一つ!
「ねえ、何あの人?」
「見ちゃダメだよ! 怪しすぎるもん」
「そうだよね、せっかくの恋愛映画なのに隣の席とか……」
「後で通報しとく?」
「しっ、聞こえちゃうよ」
「…………」
うぅ……。何が悲しくて私は幼馴染のデートを尾行して挙げ句の果てに不審者みたいな格好のまま一人で恋愛映画を見ているの……?
私、どこで間違ったのかな……。うぅ……こんなことなら家でおとなしくしていればよかった……。
ゴールデンウィーク、私は幼馴染のこーちゃんを遊びに誘った。しかし、こーちゃんには断られ、私は何を思ったか彼らのデートの様子をちょっとだけ見に行くことにした。
本当は駅前で帰るつもりだったのに一花ちゃんカップルに見つかり、そのままこーちゃんたちを尾行することになってしまったのだ。
なのに一花ちゃんたちと来たら、私の前でずっと稲村くんに甘えてた。それにこーちゃんたちもなんだか初々しい感じで見ているこっちが恥ずかしくなるような……。
他人のイチャつく様子がこんなに心にくるなんて思ってもみなかった。なんて惨めなの……。
それにせっかく、こーちゃんと一緒に見にこようと楽しみにしていた恋愛映画まで変な格好のまま一人で見ることになるし。こーちゃんたちはカップルシートでなんかいい感じだし……。もうやだ……。
その思いで私は他のことなど忘れ、映画を楽しむことに決めた。
映画が終わると私は号泣していた。
変装のことなど忘れて、サングラスも取ってマスクも麦綿帽子も外していた。
「いい話だったよぉ……」
一人で見ていたからか、すごく心に突き刺さった様に感じる。
目には大粒の涙。そして鼻水。こんな顔、人には見せられない。
そのせいで先ほどまで不審がっていた隣の女性に慰められた。その優しさがまた、私の涙腺を刺激した。
映画館から出て、一花ちゃんに連絡するも、『今日は解散』と返ってきた。いったい私は何をしにここに来たのか。思わず自問自答していた。
「はぁ……」
私は映画館から出た後、同じ商業施設内の別フロアにあるベンチで一人ポツンと座っていた。
出るのはため息ばかり。なんだか今はすごく寂しさを感じる。
スマホを取り出し、今日の成果を確認する。
そこには私が影から写真に収めたこーちゃんとあかりちゃんのツーショットがいくつもあった。
「私が心配しなくてもしっかり彼氏やってるじゃん」
誰に語りかけるわけでもなく、一人そう呟く。
こーちゃんにできた初めての彼女。こーちゃんのことだし、女の子の扱いとかわからないかと思ったけど、電車でもあかりちゃんのこと気遣ってたし、ちゃんとリードしてた。
私にとってはいつもまでも頼りない弟のような存在だったけど、ちゃんと大人になってるんだなって思った。
「はっ!? これが所謂、姉離れってやつ!? くそぅ……それはそれで寂しいな……」
まぁ、姉だ弟だ、と言っているのは私だけなのでこーちゃんが私のことをどんな風に思っているかはわからない。年も同じだし、誕生日がほんの少し、早いってだけ。正直、私がしなくてもこーちゃんは一人でなんでもできるし、私の失敗を何度か尻拭いしてくれたこともあった。
「これじゃあ、どっちが姉か兄かわかんないや」
一人で苦笑を浮かべた。
……こーちゃんに告白された時、頷いていれば今頃、あの隣にいるのは私だったのだろうか。
そんなありもしない、IFを想像して私はかぶりを振った。
ふふ、そんなこと今更思ったって仕方ないんだけどね。私にとって、こーちゃんは手のかかる弟で大切な幼馴染ってだけなんだから。これからもあの可愛い弟の様な存在を見守っていこう。
そう、もう一度心に決めた。
「ほぁ。それにしても彼氏か……。私も作ろうかな」
本当に欲しいだなんて思ってないけど、なんとなく人恋しい今、口が勝手にそう動いた。
「へぇ、お姉さん彼氏欲しいの? 俺がなってあげようか?」
不意に声をかけられた。
私は、声がした方に頭をあげるとそこにはチャラそうな金髪の男と少しイカつい短髪の男がいた。
私に話しかけてきたのは、チャラ男の方だ。
「え? いや、その……」
「お姉さん、寂しそうな顔してたからさ。よかったら俺たちと遊ばない? 楽しませてあげるよ」
明らかに下心満載の顔でこちらを覗いてくる。
ナンパというやつだ。今までにも何度か遭遇したことはある。
こういうチャラい男は嫌い。
だから私は毅然とした態度で断った。
「結構です。間に合ってます」
「そう言わないでさ〜。彼氏欲しいんでしょ? 俺、今フリーだからさっ! 絶対楽しいよ?」
しつこい。私はその場から立ち上がり、慌てて立ち去ろうとするももう一人の短髪男が進路を塞ぐ。
「どいてください」
「へへ、ちょっと楽しもうよ」
チャラ男はそう言うと私の腕を掴む。
運の悪いことにこのフロアにはそこまで人が多くない。それでも少しは周りに人がいるはずなのに、短髪の男が睨みを利かせ、それが怖いのか見ないフリをして通り過ぎていく。
そんな……!
目が合っても逸らされて終わり。
せめて施設のスタッフにでも知らせてくれれば。そんな淡い希望を持つもスタッフは来ることがなかった。
怖い……助けて、こーちゃん!!
心のうちでそう叫んだ。その時。
「おい、手を離せよ」
男の人の声がした。
「こーちゃ……!」
私がその声の方を向いて、名前を呼ぼうとした時、それが私の期待した人物ではないことに気がついた。
「桜庭くん?」
そこには部活のジャージ姿をした桜庭くんの姿があった。
「んだよ? 今俺たちがこの子と遊びに行こうとしてんだけど」
「迷惑してるだろ? それに悪いけど、クラスメイトなんだ。放っておくわけにもいかないよ」
「ああ? お前、女の前だからって何調子乗って──」
「それにスタッフももう呼んでおいたから。直に来ると思うけどどうする?」
「……チッ。行こうぜ」
男たちは桜庭くんを人睨みすると悪態を吐きながら去っていった。
桜庭くんはそんな男たちを鋭い目つきで睨み返していた。そして男たちがいなくなるとこちらに向き直る。
「大丈夫だった?」
「えっと、ありがとう……スタッフの人は?」
「ああ、それは嘘。見てからすぐ声かけたから」
桜庭くんは先ほどまでの真剣な表情と打って変わって、優しく微笑んだ。
「どうしてここに?」
この商業施設はうちの学校からは距離がある。電車を乗り継いてこなければいけない場所にあるのに、部活帰りの格好をした桜庭くんがなぜいるのかが気になった。
「あー実は、近くで練習試合だったんだ。それで帰りにここに寄って、たまたま。涼宮さんは一人でここで何してたの?」
「え? あ、いや、えーっと……」
私はなんて言おうか迷った。幼馴染のデートを尾行していたなんて言えない……。
ただ、そのタイミングで助け舟が舞い降りる。
「陽くん?」
「葉月?」
泥舟の間違いだったかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます