第10話:偽カノとの帰り道「手を出しなさい」
「なるほどね。やっぱりそういうことやったんやな」
「やっぱりって……分かってたのか?」
「なんとなく言うたやろ? いつも桜庭にスキスキモード全開の東城が別の人と付き合ってる言うたらそら、何かある思うで」
「す、すきすきもーど……」
マジか。確かにかなり不自然な運びなのかもしれない。
もう少し期間を開けるべきだったか?
俺の前で恥ずかしがる東城をおいて話を進める。
「もしかして俺たちが本当は付き合ってないって他の人にもバレてたりする?」
「それはどうやろな。まぁ、恋人にしては不自然な感じがしなくもないから疑っている人はおるかもしれんな」
「そ、それはマズいな」
……待てよ? もしかして葉月も気がついてるんじゃないか? 葉月の様子がおかしかったのがその証拠だ。なるほど。でもそれでなんでいつもと様子が変わるのかが分からん。帰ったら聞いてみるか?
「分かってくれるのぉ!?」
「うんうん。あかりんも辛かったんだね。ほら、おいで」
「っ!」
突然の俺たちの前の席から大きな声が聞こえた。それに思わず、体がビクリと反応する。
俺たちがそんな話をしている横でどうやら東城は田崎に自分の身の上話をしていたようだ。東城は桜庭に振り向いてもらえない辛さを吐露していた。
「うう、田崎さん……」
「お〜よしよし。私のことは一花とお呼び」
「一花お姉様ぁ〜」
二人は熱く抱擁をしている。なんかよく分からんけど、田崎が東城の良き理解者になった様で何よりだ。
まぁ、どちらかといえば、田崎はロリ体型だから東城の方がどちらかと言えば年上に見えるけど……。
それにしても友達できてよかったな。なんていうか、巣立つ雛鳥を見る親の気分だ。
「うんうん。百合って素晴らしいな」
「そんな目でしか見られねぇのか、お前は」
「アホ言うな。どんな時でもその瞬間を逃さんためにこのお目目はついとるんや!!」
確かに女の子が仲良くしているのは見ていて悪いものではない。男よりかは絵面的にマシだろう。
「そう言うわけで!! 二人はもっとカップルらしく振る舞わないとね!!」
どう言うわけだよ。唐突に田崎は東城を抱きしめながらこちらを見た。
東城もいきなりすぎて頭がついていっていない。
「そういうことやな。今日はそれについて提案しに来にたんや」
「提案?」
「そうっ! 二人には今度のゴールデンウィークにデートをしてもらいますっ!!」
「なっ!? 私が、コイツとデート!? 冗談じゃないわよ!! 陽くんもいないのにそんなことする意味……」
「まぁ、話は最後まで聞きなって、あかりん!」
先ほどと打って変わって急に真剣味を帯びた口調になった田崎に東城は口を紡ぐ。
「二人は今のままだとカップル? ってくらいにしか見えないの! その程度じゃ、はるとんを嫉妬させるなんて夢のまた夢だよ! だからこの機会を使ってカップル力を鍛えてくるのだぁ!!」
確かに一理ある。
俺は誰かと付き合ったことがないからカップルとしての振る舞いが分からない。それは東城も同じだろう。本当に好き同士ならそれでもいいかもしれないが、こんなチグハグなカップルでは目的を達成するのにどれくらいかかるか分からない。そもそも今のままでは桜庭が嫉妬しているかどうかすら怪しい。
「分かった。そうだな、東城。今度デートしよう」
「なんでアンタそんなに乗り気なの!?」
意外にも俺がストレートに同意するものだから東城は声を大きくあげて焦りの表情を浮かべた。
「当然だろ? 桜庭と付き合いたいんだったらこれも必要なことだろ」
「そ、そうだけど……」
「じゃあ決定!!」
東城の意思とは裏腹に田崎によって決定が下された。
東城は項垂れている。諦めろ。それとも俺とってそんなに嫌?
「それにしてもブルブルってば、なんであかりんに協力してるの? 話聞いたところじゃブルブルにメリットないと思うけど」
「まぁ、俺にもいろいろあってな。一応メリットはあるよ」
まさか俺が中学の時に幼馴染である葉月との恋が報われなかったから、東城でその想いを昇華させようとしているだなんて口が裂けても言えるはずがなかった。
「ふーん? まぁいいけど? ……ただし、はづはづのこと泣かせたら許さないかんね!!」
ビシッと鋭く田崎は俺に指を差した。
なんでここで葉月が出てくるんだ?
「それってどういう……?」
「「……はぁ」」
田崎と史哉に二人に深くため息をつかれた。なんでそんな哀れなやつを見る様な目でこっちを見るんだ。やめてくれ。
東城はというとそんな二人と違って頭にハテナを浮かべている様だった。
そうだよな。俺だけじゃないよな? 仲間がいて安心した。
「みんななんでこんなにニブチンなんだ……はづはづもそうだし、ブルブルもあかりんまで……」
「まぁまぁ。それがおもろいやろ?」
「そだけど……」
田崎が珍しく根を上げていた。いつも調子の良い、田崎が珍しい。俺は何もしていないぞ。
「お前らこそ、なんで微妙に協力的なんだよ」
「そりゃまぁ、あかりんの恋が報われて欲しいじゃん?」
「……というわけや」
本当に思ってんのかよ……。
っていうか提案しに来たってことはやっぱり初めから分かってたのね……。
なんとなく、史哉と田崎にしてやられた感が否めなかった。
◆
ファミレスを後にした俺は、東城を家まで送るため、いつもの帰り道とは逆方向へ足を運んでいた。
俺と東城の間に広がる空気は、どこかぎこちなく感じる。
やっぱり先ほどの二人とのやりとりで少し意識している様だ。
***
「そこはカップルらしく、いちゃいちゃしながら帰るんだよっ!! こんなみたいにね!!」
「おう。もうこんな感じでベッタリや」
***
目の前でイチャつくカップルのデモンストーレションを見せられたらなんとも言えない気持ちになるのは分かった。
「ほ、ほら。手を出しなさい。カップルらしくするんでしょ」
「お、おお……」
てっきり嫌がるかと思ったが、意外にも東城は積極的だ。
少しはカップルらしく振る舞う大切が身に染みてくれた様で何より。
では、失礼して。
「……」
「……」
なんだ、この妙な緊張感は。空気がさっきより重くなった気がする。
別に好きでもない相手だというのに、少し心臓が高鳴る。
落ち着け〜これはただの練習だ。そう相手は人形だと思えばいい。
……。ああ。それにしても女の子の手って柔らかいな。それでいて近くにいるものだからいい匂いが……って完全に意識しちまってる!? 違う違う。あくまでこれは練習なのだ。お経でも唱えとこ。南無三。
そんな空気の中だった。
そろそろ日が沈み、電柱についているLEDが薄らと辺りを照らし始めた時。
後ろから、ストロボライトが俺たちを照らした。
「燈理?」
その声に思わず、俺と東城は振り向く。
そこにいたのは、桜庭だった。
「ッ! 陽くん!?」
慌てて、東城は俺から手を離した。
「こ、これは違うの! 違うのよ! これは決してそういうんじゃ……」
テンパリすぎてなんだか浮気の現場の見られてしまったような感じの言い訳をする東城。
「……はぁ。燈理。落ち着け」
クロスバイクから降りてきた桜庭は、ため息をつきながら東城の頭を優しく撫でる。
東城はそれに対し、恍惚の表情を浮かべていた。
というか、なんだ? 彼氏(偽)の前でコイツ、やりやがるッ!!!
流石、幼馴染と言ったところか、東城の扱いが抜群だ。
それは桜庭だからということかもしれないけど。
しばらく、彼氏であるはずの俺は、二人の幼馴染の幸せ空間を見せつけられていた。いや、何この時間? 俺の存在いらなくない?
そう思っていたところで桜庭は俺の視線に気がつき、何かを思い出した様に東城の頭から手を離した。
「ぁ……」
名残惜しそうな東城の声が溢れる。
「あ、そうだ! えーっと。燈理」
「な、なに?」
そして何かを思い出したかの様に東城に向き直る桜庭。
「……昨日は悪かった」
桜庭はその場で頭を下げた。
昨日の廊下での喧嘩のことを誠心誠意謝っている様だった。
なんだ、良いやつじゃねえか。イケメンだから気にくわないけど。
「べ、別にいい……」
東城もどこか素直になれない感じでその謝罪を受け入れた。
「ありがと」
桜庭は東城の許しが出ると頭を上げ、爽やかにニコっとそう言った。
うっ。眩しい。イケメンオーラが半端ないっ!!
東城も顔を赤くしている。
「燈理。青北と付き合ってるって言うのは本当なのか?」
ぬぉ!?
突然飛び出した質問に東城はおろか、俺も驚いて声が出そうになった。
「え、えーっと……」
東城は俺の方を横で見た。ここは大事な局面だ。桜庭は俺たちの関係を怪しんでいる。未だ桜庭が東城のことを好きだと思い直したとは分からない。
ここで否定すれば、せっかくの計画も台無しになる。うまくやってくれよ?
俺は静かにそっと頷いた。
それを見て、東城も軽く頷く。
「ほ、本当よ」
「マジだったのか……」
桜庭分りやすく、目を見開いて驚いて見せた。
これは嫉妬している? 良い調子だ。東城もそれが分かったのか、嬉しそうに口端が上がりそうになっているのを必死に耐えている。
ここでダメ押し!!
「あっ!」
俺は東城の手を取った。
「ああ、付き合ってるよ」
さぁ、嫉妬に狂うが良い!!!
俺はイケメンの表情が苦悶に満ちることを願った。
しかし。
フッ。
──笑った?
「おめでとう!!」
あ、あれ?
「はぁ〜よかったよ。このままじゃあ、本当に嫁の貰い手がないって思ってたから。安心した。ずっと俺にベッタリで……やっと幼馴染離れできたな!」
あまりの予想外の祝福に頭が追いつかない。
「青北。これまであんま絡む機会なかったけど、これからも燈理のこと大切にしてやってくれ。よろしくな! 何か燈理のことで困ったことあったらなんでも相談乗るから!じゃあ、二人でいるところお邪魔だから俺は先帰るね!」
そういうと桜庭は再び、クロスバイクに跨がり遠くへと消えていった。
東城はポカンとこれまでに見たことのない様なアホヅラを見せていた。
「な、な、なんでぇぇぇぇ〜〜〜」
そして泣いた。
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