第9話:偽装カップルは試される。「な、何がおかしいのよッ!!」
「げっ、史哉……と田崎か」
俺が声の聞こえた方に顔を向けるとそこには史哉とクラスメイトの女子生徒、
「げっ、とはご挨拶なやっちゃな」
「何の用だよ」
「いやいや。親友がファミレスで愛しの彼女と楽しそうにしているのが見えたからな。声をかけずにはいられないと思てな。相席ええか?」
「よくない」
「ほな失礼するで。一花もそっち座り?」
「お邪魔しまーす! あかりんもそっち詰めて!!」
「あ、あかりん!?」
おい、俺の拒否を無視したぞ。
史哉は調子よく、俺の横に座った。そして田崎は東城の横に無理やり座った。
田崎は普段話したことのない相手でも問答無用に距離感を詰めることができる。そんな田崎に東城はいきなり、あだ名で呼ばれたことに驚いている様だった。
そして俺もこの田崎が苦手である。というか、史哉と二人揃うと厄介なことこの上ないからだ。
史哉だけでも面倒であるというのにこの田崎は面倒ごとが大好きなのである。今までも何度かその面倒ごとには巻き込まれている。田崎は、史哉の彼女であると同時に葉月の友達でもある。そのため、俺が関わろうとしなくても田崎との縁は切れることがない。
そんな田崎は意地の悪い笑みを浮かべながら俺と東城を交互に見ている。
一体何を考えているのか。わからない。
「それで何の用だよ?」
「いやー洸夜に彼女ができたって聞いたら話聞かないわけにはいかへんやろ? しかも相手があの東城」
「そうそう! まさかブルブルがあかりんと付き合うなんてびっくりだよね〜」
ブルブルとは俺のこと。田崎は大体の相手に変なあだ名をつける。俺のブルブルは青北の青→ブルー→ブルブルとなっているらしい。この辺もわからん。
「ほんでいつから付き合ってるんや? 俺に相談もなく」
「なんでお前に相談する必要があるんだよ」
「そんな寂しいこといいなや。俺たちの仲やろ? 教えてや」
「……はぁ。一週間くらい前だよ」
「ほ〜? 一週間前?」
史哉は何かを考え出した。あ、そういえば史哉と偽の恋人を作るって話をしたのも丁度そのくらいだったか? ちょっとまずったかも……。
俺が東城と偽の恋人関係であることは誰にも話していない。誰かにバレると桜庭にもバレる可能性が高まるからだ。
というか単純に付き合ってるフリしてるとかバレるのがなんとなく恥ずかしいというのもある。
ほら、「あ〜あれ、演技やってんだな〜」って思われるの恥ずかしいじゃん? ん? 普通にイチャついてるの見られるのも恥ずかしい気がしてきたぞ?
「ねぇねぇ、二人って本当に恋人?」
「っ!?」
ここで田崎が俺と東城を見て、核心を突いてきた。
それに東城は少しだけ声が漏れた。
「な、何言ってんだよ。どっからどーみても恋人だろ。今日だって、ほら。お昼お弁当作ってもらってきてたし。あーんまでしてもらってた」
「そ、そうよ! おかしなこと言わないで頂戴!!」
「なんか怪しいんだよね〜。あれもなんか様子おかしかったし……」
「せやせや。それは思ってたで」
なかなか鋭い。というかかなり怪しんでいる様に見える。汗がじわりと頬を伝う。
くっ。ここは我慢だ。東城頼むから、変なこと言わないでくれよ?
俺は東城の方を見ると明らかにキョドっている。目が泳ぎまくってる。もうクロール超えて、バタフライしてやがるよ。バシャバシャしてるよ。
更に汗が吹き出した。
「じゃあ、二人がカップルだったらこれくらいできるよね? フミフミ」
「ん? おう」
田崎は手を伸ばし、愛称で史哉に呼び掛けた。そして手を絡め合う。
なるほど。恋人だったら手を繋ぐのも余裕だと。
ふーん? 舐めるなよッ!!
今時、中学生でもそんなので照れないわ!!
確かに葉月意外と手を握ったことなんてないけど、そのくらい俺だってできるんだからなッ!!
「ほら、東城」
俺は澄まし顔で東城に手を差し出した。
「いやよ。絶対手汗掻いてるでしょ。汚い」
あれー? え? 何? 急にそんな感じ? さっきまで狼狽えたのに?
なんか今日の俺、こんなんばっかだな……。朝は葉月に口臭いって言われて、今は汗汚いって言われる。俺、何かしたかな? 辛い……。
「まぁ、確かに汗掻いてたら手は繋ぎたくないかも」
「じゃあ、別の方法だな」
何ナチュラルに危機回避してんだよ。ドヤ顔でこっち見るな。
俺のライフを犠牲にしていることを忘れないで!!
「じゃあ、次はそうだね。これだぁ!! すみませーん」
ん? 田崎はおもむろに店員さんを大声で呼んだ。何かを頼む様だ。小腹でも空いたのか?
ほどなくして店員のお姉さんがやってきた。
「これください!」
「はい。こちら一点でよろしかったですか?」
「はい! 大丈夫です!!」
「では、復唱しますね。“ドキッ!! これを飲めば愛深まること間違いなし!? 情熱のセレナーデ。〜今夜は燃える一時を〜”1点ですね?」
おい、なんてもん頼んでんだ!? それ昼間から学生が頼んでいいものなのか!? そして店員のお姉さんもすごいな。恥ずかしげもなく堂々とその商品名を口にするとは。これがプロ魂か……。
普通のファミレスにあるとは思えない商品名だった。
ほどなくして、その問題の逸品が運ばれてくる。
「「……」」
見た目も派手派手しく、果物などで容器を着飾ったそのドリンクからは飲み口が二つあるストローが一本刺さっていた。
「さぁ、召し上がれっ!!」
所謂、カップルドリンクというやつか……。マジでこれ飲むの? というかアルコール入ってないだろうな? 変な名前だったけど。
しかし、これを乗り越えなければ、俺と東城の関係がバレてしまう。
俺は腹を括った。
「と、東城?」
「え、ええ……」
ゴクリと喉の音が鳴る。しかし、東城は返事をしたが顔が引きつっており、中々顔をドリンクのストローの方へ近づけようとしない。
「どうしたの? ほら、早くっ!」
「せやせや」
史哉うるさいっ!!
俺は顔をゆっくりとストローに近づけた。
東城も顔をひくつかせながら覚悟を決めてゆっくりと近づける。
ああ、分かるよ。東城。そんな表情しないでおくれ。
本当に顔と顔がぶつかるのではないかという距離まで接近する。ドクンドクンと心臓が鼓動を早めた。柄にもなく緊張しているらしい。
そして俺たち二人の口がストローにつく。お互いの目が合う。顔はもう灼熱の様に熱い。
そして後は、中の飲み物を吸うだけ────。
「プッ。アハハハハハハハッ!! もうダメ〜〜〜。ヒィヒィ……しんどい〜」
「くふふふ。ハハハハハハハッ!! まじでやってるやん!! カップルやんっ!!」
俺たちは何がなんだかわからず、顔を離しポカーンとしていた。
史哉と田崎は腹を抱えて、机を叩いて笑っている。
「な、何がおかしいのよッ!!」
東城は顔を真っ赤にしながら、半泣きで詰め寄った。
ああ、そういうことなのね。俺は二人の様子を見てなんとなく察してしまった。
「アハハハハ、ごめんごめん。あかりんっ! くふ……」
「い、いい加減、笑うのやめなさい!」
「悪い悪い、東城。こら一花」
「はいはい……。くふ。二人はあれでしょ? 恋人じゃないんでしょ?」
「だ、だから恋人だって──」
「付き合ったフリしてるんだよね?」
「なっ!?」
やっぱり気がついていたのか。
「いつからだ?」
「そりゃ、今日の昼休みやな。東城が廊下で暴露したときは嘘やと思てたけど、今日の様子見た感じな。撤回もせえへんし、なんかぎこちなくイチャついてるし。後、一週間前、俺が言うてたからな」
史哉は俺を見てニヤッといやらしい笑みを浮かべた。
「はぁ……じゃあなんでこんなことしたんだよ。分かってるなら初めから言えばよかっただろ?」
「え?」
「そりゃあ」
「「面白いからっ!!」」
「っ〜〜〜〜!!」
東城は顔を真っ赤にしている。余程恥ずかしかったのか。それとも俺とはそんなに嫌だったのか。自分で言って、ちょっと傷ついた。
「で、結局何の用だよ」
「まぁまぁ。そう急かしなさんな。せっかちは損やで?」
誰のせいだ、誰の。
「二人がなんで付き合ったフリなんかしてるんかとりあえず、聞かせてくれるか? なんとなく予想ついてるけど」
俺は観念した。ここまでバレてるならもう話すしかないと。東城の方を見ると東城は頷いた。
「実は──」
俺は東城と付き合うことになった経緯を史哉と田崎に話した。
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