第8話:偽カノ VS 幼馴染?「食べてね?」
「お昼一緒に食べるわよ」
東城からの予想だにしない提案に俺は少しギョッとした。東城の雰囲気が異様であったこともそうだが、理由は他にもある。周りの目だ。どよめきが広がった。クラスメイトみんながこちらを注目していたのだ。
はぁ……。
確かにお昼からアピールしようとは言ったけど、まさかお弁当を作ってきているとは思ってなかった。まぁ、それだけ東城も本気ということか。
東城はというとチラチラと桜庭の方の様子を窺っている。
桜庭も東城がお弁当を作ってきていることに驚いているようだ。桜庭は今まで作ってもらってなかったのだろうか。ふっ、ちょっと優越感。
「ああ。ありがとう。ちょうどよかった」
ここは作戦として桜庭を嫉妬させるために東城が真心こめて作ってきたお弁当を食べて大きな声で誉めさせていただこう。
だが、ここで忘れていた事実が一つ。
葉月もお弁当を作ってきているはずだ。いつもならすぐに出してくれていたが、今日はいつもと違い、一日様子がおかしかったのでラグがあった。
葉月のお弁当はそうだな。夜ご飯にもでもいただこう。もったいないしね。
「葉月、悪い。今日は東城と食べ──」
「どうしたの?」
俺の言葉を遮って、ニコニコと隣に机と椅子を引っ付けてお弁当二つ取り出した。
「はい、これこーちゃんの分。せっかく作ったんだから食べてね?」
「いや、俺、今日は東城の──」
「食べてね?」
「えーっと……」
俺は助けを求めるように東城の方を向いた。彼女(偽)だったら、この状況を止めてくれ!!
「二つ食べるのは良いけど、残したら許さないから」
そうじゃない。
誰か、助けてくれ……ヘルプミー……。
どこからか「はは、両手に花やな」という声が聞こえた。
そういうわけで俺は幼馴染と彼女(偽)の二人に挟まれてご飯を食べている。
しかもなぜか、
「はい、こーちゃん。こーちゃんの大好きな卵焼きだよ。あーん」
「青北。アンタ、彼女が作ってきた唐揚げが食べられないって言うの? ほら、口を開けなさい!!」
「あーん」である。
二人の視線が交差し、火花が飛び散っているようにも見える。
もう一度言おう。「あーん」である……!!
人生始まって以来のモテキ到来だわ。ごめんな。心の中でクラスメイトの男子たちに謝った。
周りの奴らは俺のことを羨ましそうに見ていた。そりゃそうだ。方や、我、幼馴染で学校のアイドルこと葉月に。方や、性格には難ありだが一途であの冷たい目で睨まれたいと一部の界隈で人気が高い女帝のような東城に。どちらも揃って、容姿のいい美少女から、男なら一度は憧れる夢のようなシチュエーションを受けているのだから。男冥利に尽きるというものかもしれない。
だけどいい?
君たち、箸で口の中に食べ物押し込むのやめて。
お互いが牽制しあって力強く箸を口に入れてくるものだから、口の中血塗れなんですけど。「あーん」ってこんなに殺伐としてたっけ?
しかも、葉月からもらった卵焼きは朝食で作ったものと同じようだ。しょっぱい。
そして東城が作ってきたものは……。うん、何これ、炭でも錬成してんのか、コイツ?
噛むたびに肉汁ところか、ジャリって音と焦げっぽい味しかしねぇよ? 俺の知っているカラアゲではないようだ。
さっきまでモテキひゃっほいとか言ってたけど、そんな生優しいものではなかった。
というか、これがモテキではないことは百も承知だ。東城は単純に桜庭を嫉妬させるために俺とイチャつこうとする演技をみせているだけだし、葉月はというと多分、いつもの自分の役目が取られたみたいに感じて対抗心を燃やしているだけだろう。
俺は二人の美少女の戦いを傍目に桜庭の方を見る。
桜庭もそんな俺たちの様子を見ていたようだ。
今日は桜庭とよく目が合う。そしてまたすぐに友達の方へと向き直った。
うんうん。順調に見せつけれているな! 痛い。箸を刺すな。
それから俺は二人に「あーん」を引き続きしてもらいながら、血としょっぱさとお焦げを堪能して腹がはちきれそうになるまで弁当を全て平らげた。
食べ過ぎのせいか、食べたもののせいか知らないがその後、保健室へ向かうことになるのはまた別のお話。
◆
放課後。
俺の腹は相変わらず重苦しかった。
正直に言えば、気分が悪い。
「アンタ大丈夫?」
「誰のせいだ、誰の」
「さぁ? 涼宮さんのお弁当じゃない?」
こいつ……。自分のことは棚に上げて、葉月のせいにしやがったな?
確かに葉月のお弁当も今日はなぜか味付けを失敗していたけどいつもおいしいお弁当を作ってもらっていたので文句は言えない。
それに比べて、東城のお弁当は、なんかもう……色々と凄かった。
もしかしなくてもあのクオリティで毎日、桜庭に料理作っているらしい。そりゃ、お前、嫌われるぞ……。
あの時の桜庭の目。今にして思えば、嫉妬というより哀れみの目だったように思える。今になって気がついた。
桜庭には献身的なお世話をしていると本人から聞いている。つまり、幼馴染として俺が葉月にしてもらっているようなことだ。
朝起こしてもらったり、ご飯を用意してもらったり。もちろん、俺も初めは断ったのだが、どうやら葉月は好きでやってくれているようだ。そのままではなんとなく悪いので、たまには俺が料理を作ってあげたりもしている。
家に親がいることが少ないので俺自身も最低限の家事はできるのだ。
それに引き換え、東城はというと聞けば、まともに家事ができないようだ。掃除に行けば、部屋を荒らし、料理を作れば失敗する。桜庭もたまらず、断るのだが、東城はなぜかやめない。
本人は「照れているから」と都合の良い、解釈をしていた。そして自分の家事がうまくできているとも思い込んでいるようだ。これは重症だ。
まずはこの辺の意識を改革しなければいけないのかもしれない。道のりは長そうである。
そういうわけで俺は、帰りに東城を誘い、今後の方針について相談することにしたのだ。葉月には悪いが先に帰ってもらった。
「彼女と帰るよ」って言ったらどこか納得できないような顔をしていたが何だったのだろうか。葉月には帰り、何か甘いものでも買って帰ってやろう。
そういうわけで俺たちは学校から近いファミレスにいた。
俺のお腹は不調を訴えているので、コーヒーだけ頼んだ。
東城はパフェを頼んだようだ。
「さて、東城。今後の方針だが」
「あまっあまっ」
「おい、話を聞け」
「うるさいわね。アンタの小言聞いてるとせっかくのパフェが美味しくないじゃない」
「お前のために言ってるんだぞ?」
「何よ? 今日は、アンタの言う通り頑張ったじゃない!!」
「いや、あれ結構酷かったからな? イチャついてるというより暴行を加えられたに近かったぞ?」
「はぁ? アンタ喜んでたでしょ? こんなカワイイ彼女からあーんしてもらえただけでも感謝しなさい!!」
全く横暴なやつである。
こっちの話を聞いちゃいない。
はぁ。これじゃあ、先が思いやられる。そんなことを思った時だった。
「おお、洸夜やん! こんなところで会うとは奇遇やな」
胡散臭い関西弁を使う輩が目の前に現れた。
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