真名
「ねえ桜乃消えかかっている。」
私は桜乃がどんどん見えなくなっていくのに絶望していた。だってこれまで通り楽しかった時間を過ごせなくなってしまうから。
「明日ぐらいには成仏してしまいますね。」
いつかそうなることは覚悟していたがまさか今日になるなんて。
「そんな悲しい顔しないでください。またどこかで会えますから。」
多分桜乃は輪廻転生を意味しているのだろう。しかし記憶は当然ながら引き継がれない。
「とりあえず時間がやばそうですね。」
少し時計を見た。ここを降りて旅館に着くのだろうかという疑問が出るぐらいに時間が押している。
「とりあえず行きましょう。」
「この桜の匂いほのかに良い匂いだね。」
少しだけ桜乃は嬉しそうな顔をした。その後も桜乃と少しだけ夜更かしをして思い出話をしていた。そうして私は寝落ちしてしまった。
私が起きた時には桜乃の姿は見えなかったが声だけは聞こえた。
「いよいよだそうです。いざってなるとやっぱり心残りはありますが。美桜今までありがとうございました。我がままを聞いてくれて。私の仮名に同じ桜を入れてくれて。」
「楽しかったよ。その元気でね。」
「あの昨日の夜中に手紙書いたから後で見てもらえると嬉しいな。」
「また会えたらいいね。」
そう言って桜乃の気配は完全に消えた。テーブルにあった手紙をみた。これまで私たちが行った場所などが書いてあって見ると思い出せる物になっていた。最後に名前が書いてあった。
仮名桜乃
昨日嬉しそうにしていた理由が分かった気がする。
また会えたら良いな。
真名を忘れた幽霊 楓 紅葉 @sperk
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