思い出の桜
私たちは京都に来ていた。桜乃が生前の未練を解消してくれれば良いのだが。
「やっぱり綺麗だね。」
そう桜乃はいつも通り桜を見てそう言った。しかしまだ未練は解消されないらしい。
「ねえ桜乃好きなところ行って良いよ。その名所しか知らないから。」
「あ、うん。」
そうして桜乃が歩いたところを辿った。桜並木が数えられないぐらい咲いていたがいつもの感想で終わった。やっぱり収穫はないか。
「ねえ山に少しだけ入って良い。」
桜乃は少しだけ前のめりになっていた。マップを見ると偶然か今晩宿泊する旅館の近くだった。消えてしまう可能性があると考えると嫌だけど桜乃の事を考えるとこうしないとならないというジレンマに駆られた。桜乃は急いで何かを探しているようだ。
「何探しているの桜。」
「そうなんだけど…大丈夫かな。あの木少しだけ病気入ったから。」
随分と奥深くに来たが、時間的にはここらへんで引き返したい。
「あった。」
桜乃はある桜の前でそう言った。目の前の桜は桜乃と同じく歳をとっていた。
「もう大丈夫なんだね。良かった…本当良かった。」
「これが見たかった桜なの。」
「うん。これが私の生前に面倒を見た桜なんだ。この桜は少し病気持ちでね。私が死んだ後になっても春になっても咲かなかったんだよ。それ色々と花や桜を見て回って治してあげたかったから色々なところに行っていたら帰り道が分からなくなってあの桜の下にいたんだ。」
桜乃は嬉しそうに泣いていた。気のせいだろうか少しずつ消えかかっている。
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