【三十年一月三十一日】
先月までSAMのコントロールパネルが占拠していた艦橋の一角は綺麗に片付き、掃海艇時代のままの色をした壁が見えている。航海に必要な最低限の物だけを残し、ほそぼそとした小物を箱に詰めていけば、艦橋の中がどんどんと寂しく機械的になっていくように感じた。ここ数日で食器やコピー機、洗濯機などなど【掃海管制艇くめじま】に必要な物が陸に下ろされている。中には阪神基地時代からの品も見受けられ懐かしい思いもした。箱の蓋を閉め、外に運び出す。この戸を引く感覚もあとは数えられるくらいにしか味わえないと思うと一抹の寂しさがある。ラッタルを降りて箱を乗員に手渡せば乗員は何も言わず、丁寧に箱を抱えて艇から降りた。今の箱が最後の箱だった。心なしか喫水も少し上がったような気がする。もう一度艦橋に戻り空っぽの艇内を見て回る。
「キレイになったなー」
何もない艇に自分の声がひびく。
「俺、やればできるからな……」
士官室の横を通り艇尾へ向かう扉から外へ出る。この扉を閉めてしまえば誰かの【家】としての【くめじま】は終わる。
「おつかれ」
扉に手を掛けてゆっくりと丁寧に押して、レバーを動かす。水密扉独特の重い音がHバースに寂しく響いた。
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