【十二月三十日】
年の瀬の呉港。静かであるはずのその一角がやたらと賑わしい。原因は最古参の掃海艇が弟の来訪にはしゃいでいるからだ。いい歳したおっさんが……と言いたくなるが、掃海艇なんて三年も生きればおっさん化するのが宿命のような艦種だ。それが二十年もすぎたとなれば、どんな惨状かは想像にかたくない。
「あいみや!! 飯行こう!!」
「……焼肉なら行きます」
「焼肉食べたいです。くめちゃん」
「久ちゃん、俺も焼肉がいい」
「遠慮って知ってる?」
年の瀬だというのに元気な余命わずかなおっさん……久哉が弟二人を引き連れて俺たちのバースにやってきた。
「お前ら本当遠慮ないよな」
そう言いつつもその足はちゃんと焼肉店のある方へと向いている。なんだかんだで面倒見がいいのは彼の兄の和哉や家哉の影響だろうか、時折今は亡き彼らの面影が見え隠れする。
「SAM《サム》下ろしてから体が軽いんだよなー。たけ、お前改造したら肩こるぞ。主にSAMの捕獲で」
「SAMって捕獲するもんなの?」
「おう。REMUS《レイマス》もまれに逃げる」
焼肉店までの道のりで前のおっさん兄弟が管制艇トークに花を咲かせる。自分に関係があるのかはまだ分からないが、恐らくSAMはきっと近いうちに用途廃止間違いなしだから大丈夫だろう。
「ねえ、あいちゃん。俺も管制艇になるのかな」
「さあ? 長生きコースは辛いって聞くぞ」
「ああ……いえしま」
ほんの少しの疎外感を感じつつ隣の兄に話しかける。木造の自分たちにとっての長生きとは何かを考える。いいことか、悪いことなのかはきっと長生きしてみないと分からないのだろう。今の俺は幸せだと思う。なぜなら肉の焼けるいい匂いがするし、これから炭酸の効いた麦飲料を胃に流し込むのだから。
誰もが腹を空かした夕飯時。四人の小柄なおっさんが焼肉店ののれんをくぐっていった。
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