第十四話 森の異変 4


         ◆ ◆ ◆


 先に向かった赤いスライムは目的地に着いていた。

 目の前には人の子ほどの大きさの精霊が何者かと戦闘している様子があった。赤いスライムはすぐ応戦に向かおうと精霊に駆け寄る。


「――っもう」


「おらおらぁ! どうしたどうしたぁ?! かの精霊様の力はそんなものかぁ!」


 敵の方が圧倒的に優勢だ。魔法を放ちながら煽り、精霊は結界を展開し必死に攻防を受け続けている。


「『炎弾』!!」


 不意にどこからともなく魔法の気配を察知した。精霊はしまったと思う。


(他にも敵っ?! だめ、避けられない!)


 咄嗟のことに反応できず目の前の攻防を防ぐことしかできないでいると、炎弾は精霊の真横を通り敵へ命中する。


「だれ?」


「ただの通りすがり……とでも言おうかと思ったが、お前シルフィじゃねぇか」


 シルフィと呼ばれた精霊は思わぬ再開に目を丸くさせた。


「うそっ、あきとくん?!」


「その名前を言うんじゃねぇ。俺は今だ」


「良かった。生きてたんだね……」


 名無しのことには触れず会話を続ける。しかし感動の再開に一人、それを踏み荒らす者がいた。刀を地面に突き立て前傾姿勢のまま立ち上がる。眼前の敵を見据えながら不適に嗤う。


「誰かと思えばおめぇあきとなのか?!! ぐふふふ」


 こちらも赤いスライムの、を知っているような口ぶりで言葉を投げかけてくる。


「その刀……きょうすけだな」


「へぇ~、これみただけで分かんのかよっ! ぐふふふ」


 実に愉快そうに嗤う。それでいて焦りは一切見られない。たかが精霊一匹、スライム一匹だ。負けるとすらも思っていないのだろう。


「昔からそうだったよな。弱い者虐めが生き甲斐なんだろ? なんど少年院に入ったんだ?」


「知るかんなもん。まあ両手では数えれねぇな! ぐふふふ」 


 もう話すのが飽きたのか地面に刺した刀を引き抜くと眼前で水平に構えた。


「……なぁあきと。おめぇこの世界どお思うよ。俺さぁ……こんだけ殺しても何も言われないなんざさぁ、俺にぴったりじゃねぇか?」


 一段と声を低くし、神妙なそれでいて愉快そうに言い放った。


「きょうすけくん……」


 シルフィが悲しげに言葉を吐く。赤いスライムは大きくため息を付いた。


「お前には分からないだろうな。俺の苦しみが。この世界で酷い目に遭った、死ぬよりも痛い苦痛を味わったこの俺のっっ……!!」


 そこまで吐き捨てたところで冷気が一人と二匹を覆う。気がつくと辺りの炎が鎮圧し、氷の地面へと変わっていた。


「――間に合った!!」


「なんとか、かの」


「?! お前ら、どうやってここに」


 声がした方向へ目を向けると先程別れたばかりの二匹を見て思わず声を上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る