第十三話 夜明けの悪夢


 ――ふと一匹は目を覚ました。寝起きで頭がぼんやりとしているからなのか周囲に違和感を感じる。だが辺りを見回しても違和感の正体は掴めない……否、おかしなことは見つけた。

 スライムと赤いスライムがどこにもいない。


「ぬ? どこにいったのじゃ?」


 一匹は茂みの中から出ると辺りを詮索し始めた。

 ――かなり歩き回ったがどこにも二匹の姿を見かけない。


(? 歩き回っておったから気づかなかったのじゃが、これ同じところをぐるぐる回っておるの……しかたない。寝床で待つかの)


 結局戻ると欠伸を噛み殺して眠った。


「――。――。――ねっ、てば! 君起きて?」


 誰かに揺すられ起きると目をぱちくりとさせ覚醒する。


「ぬ? おぬしら今までどこにおったのじゃ?」


「それは私のセリフだよ。突然いなくなったと思ったらこんなところで寝てるんだから」


 どういう意味だと思い一匹は辺りを見渡す。寝たのは確かに最初入った茂みのはずだ。だがここは茂みの中ではない、というか開けている。スライムの後ろのほうに目を凝らすと川があった。それほど遠く移動したわけではないが、もしかしたら寝ているうちに茂みから出てしまったのかもしれない。一匹はそう思い納得しようとした、が赤いスライムが吐き捨てるようにこう言った。


の仕業だろうな」 


 聞き慣れない名前に一匹は思わず聞き返した。


「縄張りの内側に幻影を映す魔物だ。一回縄張りの中に入ったら元凶を殺らない限りは出れねぇ」


「幻影……具体的にはどういうモノを見せられるのじゃ?」


「そいつにとって一番嫌なことだな。つまり精神攻撃で追い詰めて戦意がなくなったところで喰うってやつだ」


「元凶はどうやって探すの?」


「残念だが探し方は知らねぇ。地道に探すしか無いんじゃねぇか?」


 肝心なところは知らず思わず転けかける一匹とスライム。


「あぁ~でも、霧は出てないみてぇだし意外と簡単に見つかるかも知れねぇぞ?」


「霧?」


「惑わしラビットのオスは霧を出して視界を奪って来るんだ。逆にメスが幻影を見せてくる。っまあ、繁殖期が一番やべぇんだけどな」


 今の説明を整理すると、繁殖期オスが縄張りの中に入ってきたモノを霧の渦巻く場所へ彷徨わせ、メスが幻影を視させる。精神的ダメージを負った侵入者を襲い子育ての栄養とする。幼少期はそれらの能力を持っておらず母兎に介抱され育つ。ちなみに一度の繁殖で生まれるのは十匹程度だが成体になるまで生き残れるのは僅か一~三匹ほどしかいない。


「探し回るとするかの」


「そうだね」


 今一度確認するが索敵系のスキルは誰も所持しておらず文字通り当てずっぽうに探し回るしかない。一番手っ取り早いのは索敵スキルを取ってしまうことだ。ただ取得条件をまだ満たしていないので取ることが出来ない。


 視界は良好、広範囲見渡せる。が、やはり地道に探すとは言っても森の中だ。それに惑わしラビットの幻影は入ったことも出たことも判断が出来ないという難点がある。どこからどこまでが幻影なのかも、縄張り内なのかも分からない。一つ言えるのは、ひたすら歩いても同じところをぐるぐる回っている点のみだ。

 と、一匹が妙案を思いついた。


「なあ、おぬしよ。惑わしラビットヤツを炙り出すのはどうじゃ?」


 赤いスライムは一匹の作戦を聞き驚いたが、スライムの言葉で試してみることになった。


「おもしろそうだし、やってみようよ」


 赤いスライムは近くの木に近付き身体を当てると熱を上げていく。煙が木と赤いスライムの間から立ち上ってくると木から離れた。木は次第に延焼し、たちまち一本まるまる燃え盛り隣接している木へと火の粉の手が伸びる。そうして次へ次へと火の粉が飛び交い最終的には辺り一面山火事となっていた。


 ガサガサ。


「ぬ! そこじゃっ!」


 咄嗟に水球を放つ一匹。燃え盛る茂みから出て来たのは額に十センチもある角を携えた兎だった。見事に水球が命中し、燃えている木に打ち付けられる。地面に叩きつけられピクピクとしながらゆっくり立ち上がった。一匹は追い打ちを掛けるようにもう一度水球を放つ。


 キュイィィィ……


 声を上げながら息絶え、魔石だけを残し消滅した。

 すると周囲にも変化が現れた。つい先程まで辺りは火の海と化していたのに今ではすっかり火の手はどこにも見られない。むしろ変化したかのようだ。ところどころ木の配置、花の数が違う。おそらくこれは惑わしラビット幻影から出られたと言うことだ。そう一匹は判断し、喜びを分かち合おうと振り返った。


「……ぬぬ?? 今度はなぜいないのじゃぁぁぁーー?!」


 惑わしラビットは討伐し、ようやく幻影から解放され元の場所に戻ったと思ったのも束の間、またもや二匹の姿が見られない。一匹は半ば叫ぶように大声で言い放った。

  

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