第十二話 旅路と目標 2

 なんとなしに下流へと歩みを進めること数十分。風景の変わり映えは特になく、左右に木、足下は砂利や石、右手には小川が変わらず視界に映っている。

 始めの方こそ少しわくわくしていた一匹であったが、こうも同じ景色が続くとさすがに飽きてしまう。

 ちなみにこの数十分間誰も一言も発していない。ただただ無言で、黙々と進んでいるだけだ。

 ――そろそろ二時間が経過し、日が少しずつ傾いてきた頃ようやく会話が生まれた。


「適当に進んでおるがこの先に村はあるのかの? 長いこと同じ景色しか見ていないんじゃが」


「あるとは思うよ。ほら人族ってさ水を使ってなんか作ってたりするでしょ?」


「畑とか田んぼのことか」


「多分それ。だから川沿いに行けば見つかると思うんだよ」


 無計画、ではないようだが信憑性は薄い。なぜなら、一匹は前世でを見たことがないからだ。そんな水なんかで何を作っているのか、そもそも水をどうやって運んでいるのか。入れ物に入れて運ぶにしても川から距離があれば負担がかかるだろうし、仮に魔法でどうにかなったとしてもその人の回復力次第でしか作業が出来ないのではないのか。そんないろんな疑問が次々出てくる。

 だがその疑問達は次の赤いスライムの言葉で消化される。


「まあ、直接川から水引いてるところがあれば。だな」


 一匹はなるほどと言わんばかりにものすごく納得した。川から直接水を引くのであればわざわざ汲みに行く労力も問題なくなる。


「ほ~、やはり人族等はいろいろ考えておるんじゃな~」


「俺が言うのもあれだが、人も魔物も生きるためにいろいろ知恵使ってんだよ」


「ふふ、そうだね~……人も、魔物も。ね」 


 何か含み笑いのようにスライムは言った。一匹は問いかけようと口を開いたがスライムに被せられた。


「な――」


「そろそろ夜行性の魔物達が動き出す時間だね、ここら辺で寝ようか…………君、さっき何か言いかけた?」


「ぬ? あぁ……いや、なんでもないんじゃ」


「そ? なら良いんだけど」


 一匹は別にそう深く知りたいわけでもなかったので訊かず、黙った。

 川沿いから少し森の中へ入る。あのまま川の近くにいた場合、夜行性の魔物達が水飲みに来たとき襲われるかも知れない。夜は特に凶暴な魔物や夜目の利く魔物だっている。夜目が利かないスライムにとって不利過ぎる。襲われでもしたら、たかがスライムごときひとたまりも無く死んでしまう。

 茂みの中へ各々潜ると目を閉じた。

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