第十一話 過去の話


 しばらく走っていた。たかがスライムの移動距離ではかなり動かなければすぐに追いつかれるかも知れないからだ。

 スライムが先頭を走っているがどこに向かっているのかは分からない。一匹は見失わないよう必死で走った。(スライムに足ないけど)

 ――突然目の前を走っていたスライムの姿が忽然と消えた。咄嗟のことに急ブレーキを掛けることも出来ず、一匹も――落ちた。

 気が付くと世界が反転していた、否一匹が逆さまになっていた。


「君、大丈夫?」


「う、うむ……物理ダメージがほぼ無いとは言っても急に来るとびっくりするの」


 どうやらちょっとした段差があったみたいだ。

 一匹は起き上がると周囲に目を向けた。右側から正面に掛けて大きな岩と小さな岩、それに砂のような土が散らばっており土砂崩れが起きて何年も経ったような跡になっている。左側には小さな小川が流れており、その上流には大小の岩がダムのようになり河の流れを穏やかにしていた。


「ここは?」


「休憩場所、かな」


 スライムはそう言うと小川まで行き川の水を飲み始めた。


「走って疲れたでしょ、ここの水おいしいんだよ。おいで」


 一瞬スライムに味覚なんてあるのかと疑問に思うが、別にそこは問題でもないなと思い一匹は赤いスライムを湿った土の上に優しく置くと小川に近づいた。

 小川を覗き反射した自分の顔を見る。


(初めてこの姿を見たときとなんら変わっておらぬの)

 

 目線を上げ隣のスライムに目を向けると、いささか水を飲んでいるという表現は合いそうになかった。むしろ、水に浸かっているという表現の方がしっくり来る。スライムは膝下……ボディの下三センチ程を水に浸かっており、目を良く凝らすと体内に水が取り込まれたかのような水泡がプクプクと昇っていた。

 一匹は喉を鳴らした。


(……スライムとは不思議じゃの)


 一匹もスライムと同じように小川へ入るとを始めた。


「ぬ? これは……確かに美味じゃの」


 端から見ればただ水に浸かっているようにも見えるが、スライム本人からしてみれば水分補給並びに魔力の微々たる回復をしている。

 水に味があるということは少なからず魔力が混ざっているということで、つまりは新鮮な水だ。


「──待って」


 突然スライムがそう言い一匹は自分に言われたものかと思い一瞬ビクリとしたが、スライムの視線がこちらに向いていないことを確認するとその先に目を向けた。どうやら赤いスライムが目を覚ましてどこかに行こうとしているところだった。一匹はスライムが発するより先に疑問を口にした。


「行くあてはあるのかの?」

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