第十話 同類確保? 4

「……構築。範囲、距離の指定。魔力の注入――完了」


 突然スライムがボソボソと言い始めた。かと思えば木陰から出ると魔法陣が展開された。半分が赤、半分が青の魔法陣がスライムの目の前で回転している。

 騎士の剣が赤いスライムの眼前まで迫っている。


「――業火球ヘルフレア魔オール弾氷弾


 スライムから放たれた複合魔法、業火氷雪アイスフレアは赤いスライムと騎士の間に壁を作るかのようにして燃え盛った。

 氷の壁が一直線にそびえ立ち、それを燃やさんとするばかりの炎が辺りを蠢いている。


「二重詠唱だと?! たかがスライムごときがっ! おいレドレス! あのスライムを先に殺れ」


 そう呼ばれた騎士、レドレスは一瞬目を伏せると一匹とスライムの方を向いた。


「……あの奴隷はどうするのですか」


「隷属が機能している限り抑えることは出来る。その間に邪魔する奴を殺せ」


「……了解した」


 一匹は考えた。


(ここで留まっておく理由はないはずだ。ならばこやつを連れ、逃げる。だが、どうしておぬしはあの赤いスライムを助けたのじゃ? 逃げる隙はいつでもあったはずじゃ、わざわざちょっかいを出す必要は……)


「お願い。私に、協力して……」


「協力? それよりもなぜこの状況で逃げないのじゃ? こんな場所にいても無駄死にするだけじゃろうに」


「だって、だってスライム仲間が攻撃されてるんだよ! そんなの、助けないわけないでしょ!」


 いつしか聞いたことのある言葉。

 だけどそれは一匹の胸に深く刻まれていたモノ。

 この“約束”は今世でも実行する。

 なぜならあるじは、心の中にいるから。


「……そうじゃな。わしはなにをすればいいのじゃ?」


「私が動きを止めるからその間にあのスライムを連れて来て」


 一匹は頷くとスライムから一メートルほど距離を取る。一匹から赤いスライムまでは約五メートル、騎士までも同じくらいだ。

 ここから赤いスライムがいる場所まで走り、連れて戻ってくる。大丈夫だ、なんて言ったって先程スライムが放った業火氷雪の壁がまだ生きている。


「いくぞスライム。本来なら雑魚に使う剣ではないのだが、お前の鬱陶しさに免じて使ってやる……この炎帝レーヴァテインを!」

 

 淡々とそう告げると地面に亀裂を入れながら襲いかかった。一匹も赤いスライムに向かい駆けだす。

 スライムはうつむき加減でをした。


(!? 詠唱じゃと……今まで詠唱しておらなんだのに、一体どういう、いや今は時間を稼いでくれとる内にわしががんばらなならんのじゃ)


 一匹は必死で地面を飛び赤いスライムに近づいていく。


「『止まれ!』」


 隷属の力で赤いスライムはまたも身体を痙攣させ動きを鈍らせる。壁のおかげで向こう側は見えないが危害は加えられ無さそうだ。一匹はそう考えると赤いスライムを救出するべく地面に水球を一直線に撃ち並べた。

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