第九話 奴隷商の集う街 3

 中へ入ると、地下へと続く階段が一直線に伸びていた。一匹とスライムは階段を飛び跳ねながら降りていく。地下へ行くごとに灯りは少なくなり一段したの階段がぎりぎり見える明るさになったところで、喧騒が聞こえてきだした。

 一匹とスライムは耳を澄また。(スライムに耳ないけど)


「――20万!」「35万!」「50万!」


「……何かを叫んでる?」


 辺りは完全に真っ暗になりどっちが壁でどっちが進行方向なのかも分からない。ましてや光という光源はなく暗闇だけが目の前に広がっている

 一匹とスライムは声のするほうへ歩みを進めた。

 ――少しずつ、辺りが明るくなったように思う。先程までより足下がよく見えるようになったのを一匹は感じた。歩みを進めるごとに見える範囲は広がり、スライムも視認できるほど明るくなった。


「あっ、見えてきたよ!」


 スライムの目線の先を見ると通路の終わりがそこにはあった。喧騒もより一層濃くなり、ハッキリと聞き取れるようになった。


「――続いての商品はこちら。エルフ語を話せない貴重なハーフエルフです。人族の血が多く入っているのでしょう、エルフ語を理解できないのです! 競売は銀貨一枚から始めます」


「銀貨20枚!」「銀貨30枚!」「銀貨36枚!」「……銀貨60枚」


「銀貨60枚、銀貨60枚が出ました! 他にいなければこれで落札となります…………銀貨60枚で落札となりました。落札者は今お渡しした番号札を持って受け取り室にてお待ち下さい」


(銀貨と……確かに言ったの。買い物が出来るのかの? それとも別の何かを売っているのか?)


 ようやく通路の終わりへ到達し、広い空間に出た。奥に50、横に100、高さが30メートルほどある巨大なドーム型の広間だ。下へ向かうにつれ深くなっており、一番前のステージ上に眼鏡を掛けほっそりとした体格の男が教壇の前に立っている。辺りを見渡せば仮面を被って顔を隠している者が鎮座しており、なかには一際目立つ派手な仮面をしている者もいた。長机のようなモノが端から端まで湾曲を描き設置され、それぞれが一マス分空けるようにして座っている。


(買い物……にしては変な場所じゃな。札のようなモノも持っておるし順番待ちでもしておるのかの?)


 一匹はここがどういう場所なのかも何をしている場所なもかも知らず、ただ首を傾げた。横を向きスライムに話しかけようとするとなぜか少し離れた位置にいた。


「あれは何をしておるんじゃ?」


「……奴隷」


 スライムは一呼吸置いてそう答えた。


「? 奴隷は……」


「?! 君、こっち来て!」


 疑問を最後まで言う暇なくスライムに連れられ換気口に侵入させられた。一匹は少し迷い、さっきの疑問をもう一度口にする。


「……奴隷はあの舞台で何をされておるのじゃ? それにこの施設は一体何なのじゃ?」


「……多分だけど、奴隷オークションをしているんだと思う」


 一匹は初めて聞いた言葉に首を傾げる。スライムは続けて説明してくれた。


「獣人やエルフ、魔物に奴隷の首輪を付けて強制的に従わせられているのが奴隷。それらを販売しているのが奴隷オークション……オークションに賭ければ高値で取引されるし、奴隷は主人に反抗出来ない……!」


 一匹は思わず唾を飲んだ。奴隷自体のことは知っていた。でも奴隷商に売られた後のことは全くと言って良いほど知らなかったのだ。

 心なしかスライムの身体が震えているように見え、反射的に手を伸ばしてしまった。手を頭の上に置くとスライムは安堵したかのように目を閉じ、開いた。そして自分の頬をパチンと叩くと


「今はもう大丈夫だから! わたしはもう大丈夫なんだもんね!」


 と、いきなり元気な声で言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る