第九話 奴隷商の集う街 2


「確か、魔法の名前がね『結界破りの螺旋破綻』」


 一匹はその名前を聞いて一瞬ビクリとした。「ほ、ほう……」と呟くと、内心焦り始めた。


「そ、そんな魔法使えるのかの?」


 動揺しているせいか少し声が上擦ってしまった。


「? こう……えい! やー! っていう感じですれば出来るんじゃないの?」


 そういいながらスライムは身体ごと上を向き「やー!」のタイミングで前へ戻す。一通り動作し終わると一匹を見た。

 その様子を見ていた一匹は一瞬ポカンとし思わず苦笑いを零してしまった。


「お、おぬしはいつもそうして魔法を使っているのかの?」


 さっきまでの動揺はどこへやら糸が切れいつもの口調で訊いた。

 スライムは小首を傾げながら不思議そうに頷いた。一匹はまたも笑いそうになるが必死で堪え、懐かしいなと昔を思い始める。


(そういえばわしも、昔は魔法のことなんじゃ特に考えもせずなりふり構わず使っておったからの。そう思うとやはり人族はすごいんじゃな……ほほ)


 一人いっぴき感慨に耽りながらあの頃を懐かしく思っていると突然大きな音が聞こえた。いや、鳴り響いた。


「ねえ君ー! 開いたよー!」


「…………ぬ?」


 声がした方向に目を向けると、結界が完全に崩壊し周囲に魔力溜まりが出来ていた。

 一匹はその光景に開いた口が塞がらず再びポカンとしてしまった。

 魔力溜まりが出来るほどにスライムの魔力蓄積量が多いのかそれとも周囲の魔力をかき集め、それでもなおこんなことになってしまったのかは定かではないが魔力溜まりが出来ること自体が異常だ。上位の竜種でさえ、限界まで溜めて放ったときの「竜の息吹」でぎりぎり出来るかどうかくらいの魔力が必要になってくる。


「ほら君! 入ろうよ」


 一匹が唖然としている間に声を掛けられ半ば強制的に思考を打ち切られた。

 スライムに促されるがまま一匹とスライムは中へと足を踏み入れた。

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