第九話 奴隷商の集う街


 スライムは道なき道をすいすいと進んでいく。それを一匹はスライムを見失わないよう必死で追いかける。日がちょうど真上に来た辺りで先程までの草村がなくなり、開けた場所に出ることが出来た。


「……て、あ、あれ?」


 突然スライムが素っ頓狂な声を上げ、一匹はどうしたものかと頭を捻らせた。

 スライムが地図を取り出し地面に広げる。地図を手で指しながら一匹に説明を始めた。


「えっと、今いるのがこの辺りなんだけど、この地図には森しかないよね?」


「ぬ、そうじゃな」


 少し戻れば廃墟のマークがあるが、今いるであろう地点には目印らしきものは何もなく、そのかわりに鬱蒼と生い茂る森のマークがあるだけだった。

 これだけ聞けばそれの何がおかしいのか分からないだろう。


「これ……明らかに隠してるよね」


「そうじゃの~。あそこなんか枝が積まれておるしの」


 一匹とスライムの目の前には大きな建物が木々に包まれるように建っていた。外見は蔵、しかし蔵としては二回りほど大きすぎる。それに木造で出来ているため周囲の木々と同化しており簡単に見つけるのは難しそうだ。


「……ねえ君、ちょっと入ってみない?」


「ぬ? 別に構わんが」


 街に行くのが本来の目的だがスライムに案内されている以上一匹だけで先に行けばほぼ確実に迷子になってしまう。


(こういうのも、冒険の楽しみなのかの)


 さっそく中に入ろうと蔵に近づくと、すんでの所で不可視の壁に歩みを阻まれた。扉はすぐ目の前にあるというのにこれ以上前に進めない。


「魔法障壁……? いや、承認型の隠蔽結界か……!」


 一匹の独り言が聞こえていたのかスライムがすぐさま反応した。


「隠蔽結界?」


「うむ。対象の建物を認識阻害させると同時に、もし見つかってしまったときに侵入出来ない結界を展開することが出来る魔法じゃ」


(こんなところで再び隠蔽結界を見ることになるとはの……)


 一匹は遠い目をしながら思い出に耽ってしまった。だがスライムも何か考え事をしていたのか一匹の様子に気付く素振りはなかった。


「…………え、なら入れないってこと?」


「ぬ? ……そう、なるの」


「なんとか入れないかな……解除できる魔法とかないの?」


「そう、言われてもの……」


 一匹は「う~ん」と首を捻らせながら(スライムに首無いけど)考えた。ふと、ある魔法を思い出した。一匹は少し考える。この魔法のことを話すべきか言わないべきか、そもそも使えるかどうかが怪しい。なぜなら、詠唱が複雑かつ、MPをそれなりに消費してしまうからだ。


「……あ! ねえ君、この魔法知ってる?」


 スライムは目を輝かせながらそう言った。

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