第八話 冒険者ギルド 5

 四本触手を作ると角に巻き付け勢いよく引っ張った。


「せーのっ! ……あいたっ。ぃててて」


 角を抜いた反動でスライムは後ろに転けた。触手を見るとおでこから抜けた白い角があった。それを掲げると感慨深く微笑んだ。


「……やっと、やっとだよ」


 誰に言うのでもなく独りごちると角を持って一匹の所へ戻った。

 どうやら一匹はまだ起きていないらしく寝返りを打っている。スライムが一匹の目の前まで行くと突然一匹に抱きつかれた。スライムは訳が分からず目をぱちくりとさせる。


「?! ……ぁう…………き、君?」


 なんとか声が上擦らないように気を付けながら寝ている一匹に問いかけた。だが一匹はまだ夢の中のなのか「う~ん」と言うだけで目を覚ましそうになかった。スライムは思わず拍子抜けし先程までの感情は何だったのかと思うほどに冷静さを取り戻した。

 ――またも突然一匹が目覚めた。一匹は自分が何をしたのか全くわかっていない様子でおどおどすると、次の瞬間勢いよくスライムから離れた。そのまま壁にくっつくと顔を真っ赤にしずるずると床に落ちる。スライムが近づくと一匹は壁に顔を向けたまますごい勢いで謝ってきた。


「あっ、さ、さっきのはほんとうに申し訳ないのじゃ! たっ、夢を見ていての……ああいや、その……抱きついて悪かったの…………」


 普段の一匹より早口でしゃべる様はスライムから見てとても可笑しなものだったのか、一匹が話し終わったところで耐えきれなくなりおもわずスライムは吹き出して笑った。


「ふふふっ、よっぽどうれしい夢だったのね」


 一匹はなんだか気恥ずかしいようなうれしいような、そんな気持ちになりさらに顔を紅潮させた。そんなこともよそにスライムは一匹に声を掛ける。


「さ、君。もう朝だよ? 早速出発しよう!」


 スライムはなぜか、一匹はもうすでに起きているのにも関わらず“朝だよ?”と言った。一匹はそれどころではなく特に何も言うことはなかった。少し顔を赤らめたままスライムとともに外へ出ると地図を地面に広げた。


「ええと、ここが今いる廃墟だから……」


 一匹には地図の見方が全くもって分からないので案内はスライムに任せて周囲を少し警戒していた。


(それにしても……あの日からよくあるじの夢を見るようになってしまったの)


 どうもここ最近一匹はしょっちゅう主との夢を多く見るようになってしまった。理由はよく分かっていないようだが。

 と、そうこう考えているうちにスライムから声が掛かった。


「君、行こう」


「うむ」

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