第八話 冒険者ギルド

 ――翌日。一匹とスライムはまるで何事もなかったかのように森の中を一直線に突き進んでいた。

 道中大きな山々が見えてきだしたが、山の間が不自然なほどに綺麗に割れており越える必要はなかった。目的地は人族が住まう大きな街だ。


「そういえばなんじゃが、なぜこっちに街があると思い出したように言ったのじゃ?」


 スライムは一瞬考えようとしたがすぐに辞めた。そしてこう言った。


「そこに街があるのをからだよ」


 一匹は妙な言い方に首を傾げつつも特に気にすることはせず山道を進んでいた。意外なことに魔物と一切出くわすことはなかった。一匹はこんな日もあるのだろうと全く気にする素振りすら見せなかった。

 太陽が頭上に来た辺りでようやく目的の街が見えてきだした。


「あそこだよ。さ、行こう」


 スライムは一匹の身体を掴むと(慌てて手を伸ばした)一匹の手を引きながら走った。が急な坂だったため二匹して坂から転げ落ちた。


「わー!?」


「ぬわぁー!?」


 見事に転がり落ち、麓の木の幹にぶつかりようやく勢いがなくなった。一匹とスライムは眼をぐるぐる巻きにさせながらお互い顔を合わせた。思わず吹き出し大笑いした。


「あはは! なにその顔、泥着いてるよ! あはは」


「おぬしこそ、ぬははは!」


 涙を手で拭うとスライムが全身で乗り出しながら突然こう言った。


「初めて笑ったね!」


 一匹はその言葉にハッとした。


(そういえばわし、こっちに来てから一度も笑ってなかったの……)


 思えば、こちらに来てからスライムは笑うことはあっても一匹は苦笑や失笑などが多かった気がする。こんなにも高笑いをしたのはいつ振りだろうか、いや、主の言ったとおりなのかもしれない。


「……そうじゃの」


 一匹は今までで一番の笑みを零しながらそう言った。

 ひとしきり笑い終えると、手慣れた様子でスライムと一匹は浄水の魔法を使い身体に付着した泥を浄水させた。

 浄水の魔法は単に水を綺麗にするだけではなく、水分さえ含めればどこだって汚れのない綺麗な状態に出来るのだ。


「それで、どうやって中に入るのかの?」


 一匹が最もな質問をするとスライムは鼻息を立てながら「フフン!」と言うと、あるスキルを二匹に向けて使った。


「これはね、魔物隠形って言うスキルでね、周りから私たちの姿を見えなくすることが出来るの」


「ほぉ~、そんなスキルがあるのか……」


 一匹は感心するようにスライムの身体をぐるりと見ながら率直な疑問を頭の中で解いた。


(姿が見えないとは言っても同じスキルを使っておればお互いの姿は見えるのじゃな)


 スライムは気恥ずかしかったのか「ほ、ほら。い、行くよ!」とだけ言うと街の門を潜った。一匹もスライムの後を付け門を潜った。

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