第五話 人族の知り合い 4
一匹は時々上空を見上げた。木々の隙間から日光が差してくる。少し視線をずらせばスライム達が住んでいる山が見えるのだが、スライムは相変わらず地図を見ながら歩いている。
スライムが黙々と進んでいくので一匹は黙ってついて行くしかないのだ。
――しばらく歩くとスライムから声が掛かった。
「……君は、ううん。どうして人族の知り合いが居るの?」
突拍子もない質問だった。一匹は答えに詰まりどう答えようか迷った。一匹が逡巡していると
「ああ、いや。人族に知り合いがいるのは別にダメじゃないんだけどね……その、なんというか……」
スライムにしては珍しい。こんなにも言葉に詰まっているなんて、もしかしたらそんなにも言いにくいことなのだろうか。と一匹が考えていると、ふと思っていた言葉が口から溢れてしまった。
「……奴隷……いや元奴隷?」
スライムはビクッと身体を震わせながら立ち止まった。
「……え、どうして?」
「聞いたことがあったんじゃよ、レアな魔物は冒険者や盗賊にテイムされると奴隷商に売られるとの。おぬしはスライムの中でも珍しい存在ではないのかの?」
「確かに、私は普通のスライムと違って知能は高いからこうして自我もあるし、スキルや魔法の量も多いけど」
スライムは他のスライムと違って知能も高ければスキルや魔法の量も多い、だから人族に捕まり奴隷として酷い仕打ちを受けたからこんなにも言葉に詰まっているのではないかと、一匹は考えたのだ。
「では逆に訊くのじゃが……なぜそんな人族を嫌っておるのだ? わしとしてはそんなに――」
「嫌ってはないよ。でも行動とかがあの
一匹はスライムが少し涙目になっていることに気がついた。「まずったかの……」と思いながらスライムが紡ぐ言葉を待った。
「人族も、魔物も、いじめだったり、差別だったり、どこに行ってもなくならないんだよ! 私がもう……生きてて良い場所なんてないんだよ……」
突然の吐き出すように出された言葉は一匹の心に染みついていた何かを刺激した。
スライムは溜まっていたものを吐き出せてすっきりしたのか、一度深呼吸をして心を落ち着かせていた。
一匹はと言うとなんだか不思議な、それでいて複雑な気持ちになっていた。どう返したら良いのか分からなければ、こういうとき気が利く返しも一切思いつかない。
――一匹は悔やんだ。ドラゴンだった頃の自分を、そしてもっと人族について聞いておけば良かった。人族のことなんてどうでも良いと無関心だった自分を殴りたい気持ちになった。
(いや、この姿なら
だからこそ一匹はこう言った。
「――おぬしが生きて良い場所などわしが
今は出来ないかも知れないけれど。
あの時のような強さはないけれども。
わしが初めて“友”だと言えたあの人のためにも。
「たかがスライム一匹。わしが最高の居場所を
一匹は高らかにそう宣言した。
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