第五話 人族の知り合い
◆ ◆ ◆
そのころ一匹とスライムは無事家に帰還していた。
「はぁ~。大変な目にあったのぉ……」
一匹は家に着くや否や大きなため息をついていた。そのまま地面に寝転び――もとい液体のように広がり身体を休めた。
その横でスライムも一匹と同じように寝転んだ。そしてすぐこう切り出した。
「乱入者のおかげでなんとか助かったね~。そういえば、乱入者を見て血相変えてたけどどうしたの?」
「う~む、何と説明したらよいのやら……」
一匹は答えに詰まった。知り合いと魔力の波長が似ていると言ったとしても理解してくれるかは別問題になってしまう。しばらくどう答えようか迷っていると、スライムが
一つ咳払いをした。
「まあ、答えにくいのなら言わなくても良いよ。でも話せるなら話して欲しいかな」
そんな曖昧なことを言われて一匹は決心したかのように言った。
「すまないの。今は言い方が分からないんじゃ、また今度改めて言わせて貰うとするかの」
一匹がそう言うとスライムは柔らかな笑顔を浮かべながら頷き立ち上がった。
一匹は液体状態から固体状態に戻ったスライムを見上げながら小首をかしげた。
「さて、もう朝だけどどこか行きたいところとかある?」
一匹はう~むと唸りだした。行きたいところといわれても何があり何がないのかも分からない現状だ。それに……あ。
「そういえば……今さらなんじゃが、人族の里はこの近くにあるのかの?」
一匹はふと思った疑問をスライムにぶつけた。
「う~ん……近くに一カ所あったと思うけど、どうして?」
「もしかしたら知り合いがどこかに居るかも知れんと思うての」
スライムは疑問符を浮かべながら小首をかしげた。先程あんな目に遭ったばかりなのだ不思議がるのもおかしくはない。
スライムはおそるおそるといった感じで一匹に尋ねた。
「その知り合いって……人族?」
一匹は特に間髪入れず無言で頷いた。
一匹はそれ以上何も言わずしばらく黙った。これ以上余計な情報を与え混乱させてしまうのを避けるためだ。
「じゃぁ……案内するよ、人族の里に」
不意に一切の霞のない笑顔で言われ一匹は虚を突かれたような顔をした。
「……い、いいのかの?」
驚きと、喜びと、不安が交ざったような複雑な気持ちのまま反射的に聞き返し、心の中では「やっぱり辞めた方がよさげな……」と思っていた。
だがそんな思考もつゆ知らず、スライムは「さ、行こう」とだけ、にこやかに問いかけた。
「わしとしてはありがたいんじゃが……今しがた危ない目に遭ったばかり――」
「気にしてないよ。それに、もともとは私のせいなんだから」
一匹の言葉は最後までは続かず、スライムから気にしてないとまで言われてしまった。
一匹は良い友を見つけたなと思いながら「ありがとうの」と言った。
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