第四話 凶か吉か 2

 スライムは飛び出てきた魔物に素早く照準を合わせ、魔法を放った。

 それと同時にリーダーも自身が使う最高威力の魔法を放った。


「――魔オール弾氷弾三連」


「――すべてを喰らう炎よ、敵を焼き尽くせ! 業火球ヘルフレア


 木陰から出てきた魔物は一匹に向かってとびかかったが、リーダーとスライムの放った魔法により数メートル先へ飛ばされた。


「……俺の業火球ってこんなに威力出たか?」


 リーダーは唖然としながら今放った魔法を凝視した。

 リーダーが不思議がるのもそのはず、スライムの放った氷弾がリーダーの放った業火球と融合し、複合魔法『業火氷雪アイスフレア』となり、倍以上の威力に跳ね上がったのだ。

 魔物は木を二本薙ぎ倒し息絶えた。その魔物は虚空に消滅し、魔石へと変わった。


「……か、カルマさん、今の魔法なんですか?!」


 リーダーのことをそう呼んだのは、魔法発動の補助をする杖を両手で持ち、身丈に合わないほど大きな帽子を被って興味深そうにまじまじと見つめている少女? だ。


「ん、ああシエナ。こんな魔法見たことあるか?」


「わたしが習った魔法の中にこんな魔法はありませんでしたよ!」


「お、おおそうか……で、問題はあのスライムだが」


(……なんか、まずそうじゃの)


 リーダー達の会話は魔法から目の前に居る一匹のことになった。

 すると、一匹の背後からスライムが近づいて来た。


「……ねえ、君。どうするの?」


 スライムは小声で一匹にこれからどうするのか訊いてきた。一匹は先程放った魔法がスライムのものだとすぐに理解したため、特に驚くこともなくスライムと話した。


「出来れば平和的にいきたいんじゃがの……」


「でも、人族の言葉なんて分からないでしょ?」


 一匹は失念していた。種族の言葉の壁があることに。

 一匹は、人族の仕草や話し方などからある程度は読み取れるのだが、具体的な会話の内容は流石に分からず、スライムの頭の回転の遅さには今更ながら驚いた。


「……そうじゃの」


 一匹は下手にこちらから手を出そうとはせず、人族の行動を待った。


 ――しばらく膠着状態が続いた。一匹とリーダーは見つめ合い、どちらも動こうとはしなかったのだ。それが功を期したのか、なぜかリーダーは戦闘態勢を解いた。


「……このスライム、もしかしたら他のスライムと違って知能が高いんじゃないか?」


「「ええ?!」」


 リーダーの言いにシエナ、マーサは驚きの声を上げた。それもそうだろう、スライムとは種族全体から見て一番知能が低い魔物なのだ。そのため、格下の魔物を見つけた際は襲い、格上の魔物を見つけた際は本能的に逃げる。このどちらかしかあり得ないと考えられてきたのだ。

 だが今のこの状況、そのどちらもせず膠着状態にあったのだ。誰がどう見ても異様な光景だっただろう。


(なんとか、戦うことは無さそう……かの?)


 一匹は、リーダー達の身振り手振りや表情から警戒が解かれたことを見抜いた。


「ならあのスライムはどうするんスカ? リーダー」


 一匹が最初に遭遇した冒険者がそう言った。

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