第四話 凶か吉か
冒険者はすでに弓を構えており、これが軍隊ならば「放て!」の合図だけで矢が宙を舞うことになるだろう。しかしなかなか放とうとしていない。むしろ弓の引き方が無茶苦茶だ。それゆえ、矢先があっちへこっちへ、ふらふらと動いている。
スライムはその光景を不思議にも思わず、絶好の機会だと考えた。すばやく氷弾を展開すると一気に放った。
「
氷弾は空中に突如として現れ、数十メートル離れた冒険者達に襲いかかった。これで楽に倒せる、と思っていたのだが考えが甘かったようだ。
冒険者の一人、ローブに身を包んだ赤マントの魔法使いに魔法障壁を貼られてしまった。魔法障壁は的確に氷弾が命中した場所にだけ出現していた。これだけで相当な手練れといえるだろうが、スライムは深く考えることもなく、一匹が逃げた方向へ行った。
向かった先でスライムは驚いた。一匹が別の冒険者と対面していたのだ。
スライムはその冒険者を殺そうとすぐ判断し、魔法を構築し始めた。構築自体は秒で終わるのだが、魔法に意識を向けたその一瞬! 一匹のうしろの木が一瞬揺れたように見えた。
スライムは目の前の冒険者を見据えながら魔法構築をしたため、木陰から出てくる魔物の存在に気が付くのが少し遅れてしまった。
木陰から出てきた魔物は一匹を狙って襲い掛かった。
◆ ◆ ◆
ガサガサッ!
「――魔物?! ってスライム?」
冒険者は突然出てきたスライムに驚くも、特に警戒することはなくスライムと対面していた。
だが一匹は
(……悪い癖が出てしまったの……)
一匹は自分の悪い癖が出てしまったと後悔していた。実は一匹、ドラゴンのときに何回か人族に助けて貰ったことがあるのだ。もちろん子龍のときに、だが。
魔物に襲われたとき、人族が野営をしていると光魔石で明るい空間を作り出し魔物除けを作っていると教えて貰っており、魔物に襲われたとき決まって人族に助けてもらっていたのだ。
あの時とは違う。姿も環境も。
「……害は、なさそう? リーダー、リーダー! 来てくれッス」
(ぬっ、仲間を呼ばれてしまったか……して、どうしたものか)
一匹はしばらく動かずにいた。相手に害がないことを伝えなくては一匹が殺されてしまうかもしれないからだ。
冒険者が先ほど呼んだ仲間が来るまでの間、どうにか交渉する術がないものか一匹は考えを巡らせた。
……と、一匹が熟考しているとリーダーらしき人物が頭をかきながら出て来た。
「リーダー、あのスライム見てくださいよ」
冒険者は神妙そうにしながら一匹を指して言った。
「ってただのスライムじゃねぇか。見とけよ、魔法でな――!?」
リーダーが魔法を放とうと、詠唱をし始めたときだった。リーダーが常に張り巡らせている探索の魔法に何かが引っ掛かったのだ。
リーダーは素早く位置を割り出し、何かが出てくるであろう場所を見た。
「……な?! シエナ、マーサ起きろ! 大型の魔物だ」
(なぬ?!)
一匹は索敵の魔法が使えないため反応が少し遅れてしまった。
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