第三話 魔鉱石の力 4

 一匹はなんとか体制を戻しつつ一匹にぶつかってきた何かを見た。


「……グリルボアじゃとぉぉぉ???!!」


 グリルボアとはその名の通り、焼くと旨い猪だ。体長は約一メートル、重量は成人男性二人分と言われている。

 強靱な顎に、二十センチはある牙、赤い瞳を持つ魔物だ。


「――ってぬぉぉぉ?!?! 刺さっておる? 牙がわしのスライムボデイに刺さっておるぞぉぉ!!」


 グリルボアの牙が一匹に突き刺さっていた。スライムボディはかなり透明度があるため、一匹が下を向けば余裕でグリルボアの牙が突き刺さっているのがよく分かるのだ。


 ――ヒュー……ザシュ


 またも何かが飛んできて何かが刺さった。おそるおそる見ると、グリルボアの腹に火矢が刺さっていた。

 一匹は火矢が飛んできたであろう方向を見た。何かが一瞬光った。それはみるみるうちにどんどん近づいてきていた。


(燃え……)


「また火矢かの?! ぬ、ぬぉぉ……!」


 今回のは危なかった。明らかに一匹を狙って放たれていたのだ。うまく身体を動かし、グリルボアを壁にして防ぐことに成功した。


(……ここから降りれないことには敵を見つけることも難しそうじゃな……どう、すべきかの?)


 と、思案している間にも火矢は幾つも飛んできている。ただ妙なことに一本も当たらなかった。

 一匹を擦ることも、グリルボアにあたる事も無く、一匹の身体一つ分開いたところを矢が飛来していた。


(先程とは違って……速度も遅ければ、命中率も低いが……二人以上おるのかの? エルフか、人族か……)


 一匹の思案もよそに、いつの間にか火矢は止んでいた。そして一匹もだんだんと速度が落ちてきていた。

 次第に空中へ飛ばされていたスピードは落ち、飛行から落下へ変わった。


「へ? のぉぉぉぉ!! ……――」


 一匹は、行き以上の落下速度で地へ落ちていった。


 ぽよん。


 一匹は落下途中何かにぶつかり、跳ねた。跳ねた先でも何かにぶつかりまた跳ねた。

 何度も何度もぶつかっては跳ね、を繰り返し一匹は目をぐるぐるにさせていた。


「……め、目が……まわ……ぐへっ!」


 地面に落下した。一匹は目をぐるぐると回せながら草の上に横たわっていた。

 どうやら草がクッションの代わりになったらしくあまりダメージは入らなかった。

 と、そこへ、遠くから丸い影が近づいてきた。


「はぁ、はぁ……だ、大丈夫?」


 スライムが心配して来てくれたようだ。視界がまだ揺れている中、一匹はゆっくりと起き上がった。


「な、なんとか……かの」


 言葉が少し詰まってしまったが、ぼやけていた視界もだんだんとクリアになっていきやっとハッキリ見えるようになった。

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