第二話 新たな光に潜む影 4
ゴクン
一匹は唾を飲みこんだ。そして額から溢れているだろう汗を地面に垂らした。
一匹は後ろを振り返り、
(あれは……火炎ウルフ、かの?)
火炎ウルフとはその名の通り、火属性を操る狼。風属性の
一匹は敵が火炎ウルフだと知り安堵した。
(それにしても……数が多いの!)
問題は敵より数の方だった。一匹から見える範囲でも五体は確実にいる。
紅い毛並みに紅蓮の瞳、尻尾の先は火の玉が爛々と燃え滾っている。火炎ウルフの足下に晒された雑草は跡形もなく燃え散った。
その光景を見た一匹は、今にも額から汗が垂れてきそうな程スライムボディが潤っていた。
(相手は火属性の魔物、わしとは相性が良いはずじゃ)
一匹は水属性(闇属性はドラゴンの名残のはず)なので相性は良いだろう。
一匹は牽制に水弾(固定)を火炎ウルフの足下めがけて放った。
一匹が瞬きをしたその一瞬のわずかな時間だった。一匹の放った水弾がどこにも……なかった。
普通水が地面に触れれば水が染みこんだ跡がどうしても付いてしまうだろう。だがそのような跡は一切見当たらなかった。
(……? わしの水弾はどこに消えたのじゃ?)
一匹は混乱していた。なんたって、瞬きをしたその一瞬。そんな、ほんの数秒見ていなかっただけの間に一匹の放った水弾が消えてしまったのだから。
火炎ウルフは何事もなかったかのように、その場に立ち尽くしている。
心なしか火炎ウルフの口角が上がっているように見えた。まるで「お前の攻撃は喰らわないぞ」と言わんばかりの、堂々たる佇まいだった。
(……ならもう一回じゃ!)
一匹は再び水弾(固定)を放った。今度は瞬きをせずに。
プシュー
一匹は目を見開いて唖然とした。なぜなら一匹の放った水弾は、火炎ウルフの纏っている熱気によって水蒸気へと変換されてしまっていたからだ。
(あやつ、一体どれほどの高温を纏っているのじゃ!)
思った以上に火炎ウルフが手強く一匹は苦戦していた。一応作戦は先程スライムに伝えていたのでその気になれば問題はないのだろう。
(水弾でだめなら別の方法を考えねばならんの……)
じりじりと火炎ウルフが一匹に近づいてくるので、一匹も距離を置くために少しずつ後ずさりをしている。
この光景を見ていれば誰だって分かるだろう。
押されている。と
(ここいらで決着させるとするかの)
一匹は一度深呼吸をし、呼吸を整えた。
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