第一話 不幸と出会い 5

「……だれ?」


 不意に声が聞こえビクッとなり、危うく落ちるところだった。

 一匹は声がした道の先を見た。何もいない。いや、何かしらは居た。いたのだが、それが一匹と同じ種族だと分かるまでに数秒要した。恐る恐る声のした方に近づいていき一匹は話しかけた。


「そこにおるのは……スライム、かの?」


 そこにいた一匹と同じ種族は(頷いたか分からないほどのピクッとした動きで)頷くと、後ろを向き「着いてきて」と言わんばかりの足取りで(スライムに足無いけど)一匹から離れていった。一匹は慌ててその後ろを着いていった。


(ここは……、このスライムの巣かの?)


 辺り一面ゴツゴツとした岩だが、所々布が敷いてあり住んでいるのがスライムとは思えないほど生活感が出ていた。一匹が興味津々に辺りを見渡していると


「……あそこで、なに、してたの?」


 さっきは風も出ていたしよく分からなかったが、声がとても澄んでいて透き通るような美声だ。思わず聞き惚れていると、もう一度問われた。


「あぁ……そう、じゃな……そ、操作を誤って飛んできてしまった……かの?」


 一匹がしどろもどろになりながら答えると、


「ふーん……、私の目については何も言わないのね」


(眼? よくよく見ればこやつの眼は黒色じゃな……。はて? なにかあったような気もするのじゃが……)


 さっきは歯切れが悪かったのに、今度はスラスラとした言葉になっている。一匹は眼がどうしたのか訳が分からず困惑していると


「ねぇ、あなたは……ネームドモンスター?」


(……前はあったが、このスライムには今の所無いの……。貰える予定もないしの)


「……いや、名前は貰ってないの」


 一匹は苦笑いしながら言った。スライムは「そんなに強いのにネームドではないのね」と弱々しく、でもなぜが嬉しそうに言った。


「おぬしは、あるのか?」


「私は……一応、ある。けど言えない」


 意外な反応だった。普通、ネームド魔物モンスターは特別な存在のため、強くなった力を振り回し威張るようなことをするのが一般的だ。一匹のもつ『ステータス表示』のスキルは自分にしか適用されないため、相手のステータスを見ることは出来ない。なので色々聞こうと思ったのだが、名前が無理では教えてくれそうにない。


「そうなのじゃな……」


 スライムは驚いたように一匹を見ていた。まるで『どうしてこの事にも言及しないの?』と言いたげな表情だった。一匹はそれを見越してのことか「わしら魔物にも隠したいことの一つや二つ、あるじゃろう」と何食わぬ顔で言った。(スライムの表情を読み取れるほど変化する物なのか分からないが)


「そ……っか……でも、ありがと。聞かないでくれて」


 スライムは僅かに微笑んだ。些細な変化だったが、いや些細すぎて一匹は気付かず、なぜかグルンとその場で一周した。改めて一匹はスライムに向き直りこう言った。


「良ければ…………わしに、この世界のことを教えてくれんかの?」

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