2年生編 第62話

 余は生まれて初めてこんなに緊張している。


 あの旅行を終えて、今久しぶりの学校に来ている。


 あの旅行で余は学校で余のことを話す約束をしてしまったのだ。


 くそっ、あんなことを約束するのではなかった!


 余もあの青春の雰囲気に流されてしまったが、あの時佐々木の奴結構寒いこと言っていたな。


 あれ絶対に後で思い出したら恥ずかしくて死にたくなるやつだな。


 まぁ、あんな寒い言葉に感動して、それに乗せられた余も余だがな。


 はぁ〜戻りたい。


 あの何も考えていない旅行の夜にやったトランプの所に戻りたい。


 あれは楽しかった、あの意味もなく騒いでいたあの時間が楽しくて仕方なかった。


 そう考えると今の時間が地獄すぎる。


 学校に来て、何度か魔法少女どもとすれ違ったが、誰も余の方を見なかった。


 こんなことは本当に一度もなかった。


 魔法少女どもだけではない、いつもダル絡みをしてくる旅行組以外の奴らもよそよそしい。


 が、クソ陰キャだけは関係なく余に引っ付いてきた。


 お前は余が敵だったとか興味がないのか?



 ***



 さぁとうとう話す時が来てしまったなぁ。


 最初に戻るが余は今とてつもなく緊張している。


 今は放課後で、余に関わりがある奴らを多目的室に集めている。


 そーっと教室の中を見ると大勢の奴らが余を待っていた。


 うわっ…、こんなにいるのかよ。


 結構広い教室で、椅子もいっぱいあるが椅子に座っていない


 余に関わりのある奴らだけを集めたつもりだったが、なんだかんだでこんなに大勢の奴らと関わっていたのだなぁ。


 まぁ…、あれだな、明日でも良いな。


 余はこの場から離れようと忍び足でゆっくり逃げる。


「おい、どこに行く気だ」


 ビクッ!


 そろーりと恐る恐る振り返ると佐々木がいた。


「と、トイレに行くだけだ!」


 余は咄嗟に嘘をつく。


「早く行ってこい。みんな待ってるぞ」


 待ってんじゃねぇよ、余計に余が緊張してしまうだけではないか。


 結局言うことになるのだから早いか遅いかの問題だから、早い方が良いに決まっている。


 はぁ〜行くか…。



 ガラガラッ


 

 先程までザワザワしていたが余が教室に入った瞬間シーンッと静まり返った。


 やめろよお前ら、余計に緊張してしまうではないか。

 

 余は皆の視線を集めながら教卓に向かっていく。


 そして、余は皆と向き合う。


「えー今日は集まってくれて感謝する」


 まずは当たり障りのないことを言って皆の反応を伺う。


「まぁあれだな…、気づいている奴らもいるが、余がナイトメアだ」


 これは余にとって一世一代の告白になる。


 余が今まで黙っていたことを今からぶち撒けるからな。


 皆の反応は……、ぼちぼちだな。


 気づいている奴らもいれば驚いている奴らもいる。


 この場は再びザワザワと騒がしい場になってしまう。


「お前らが何かを言いたい気持ちは分かるが今は聞いてくれ」


 魔法少女を倒しそうとしていた奴を許せない気持ちを持っているのは当然のことだ。


「余は魔法少女を倒して地球を征服しようとしていた。余はただ復讐をしたかったのだ」


 復讐、それが余の目的だった。


「余は小さい頃からいじめられていた。余はいじめに耐えられなくなり飛び降りようとした時にマナというものに包み込まれ、余はナイトメアになっていた」

 

 ここで余の第二の人生が始まった。


「そして余は地球を征服しようと魔法少女を倒そうとした。だが、お前らに会ってしまった。お前らと時間を過ごす時間だけ余の心が満たされていく感じがした。だけど、余はそれを否定し続けた。余の心を満たすのは復讐だけだと自分に言い聞かせて」


 余はこの学校に入って初めてこんなに人生って楽しいんだと思った。


 最初はこの一人称のこともあり、変な目で見られることもあったが、段々と馴染んでいった。


 復讐を忘れてしまう瞬間があってしまうほど楽しかった。


「最近になって会ったんだよ、余をいじめていた奴に。そして余をいじめてきた奴が謝ってきたんだ」


 そう、これが余を悩ませたのだ。


「それで余は…、余は…、許してやりたいと思ってしまった」


 これのせいで余は悩んでしまったのだ。


 だが、そんなの余のこれまでの人生が許すはずがない。


 だから余はあの時許してしまう前に魔法少女を倒しに行ったのだ。


「それだと余の生きる目的の復讐がなくなってしまう。それに余がナイトメアだとバレてしまった」


 不幸に不幸が重なって余はおかしくなってしまった。


「ナイトメアだとバレてしまってはもうお前らの前には現れてはいけないと思った。だから2度と会わないようにしようとしたが、旅行に連れて行かれた」


 それがほんの前の出来事だ。


「佐々木の言葉のおかげで皆の前に出ようと思えた」


 ここで余の目頭が熱くなっていくのが分かる。


「だから、もし」


 ダメなのは分かっている


「もし」


 ダメなのは分かっているが


「お前らが許してくれるなら」


 もう止められない。



「余はお前らと一緒にいたい」

 

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