第14話 心こころがわり、大嫌いから・・・・(後編)
翌日の日曜は劇団員の方も来て稽古をした、心の成長を団長、団員達もわかるようで一週間後が楽しみだとおっしゃっていた。
そして本番2回目当日、今回も満席でにぎわった、心も落ち着いており無事姉役をやり切った、 打ち上げの席で心が団長に代役の方は見つかりましたか? と尋ねる、返答は探しているのだがまだ見つからないとの事だった。
「来月と再来月の残り4回、私で良ければ使って頂けませんか?」
臣は大はしゃぎして喜び、団長、団員皆助かるよと心を歓迎する。
「受験生だって言っていたけど大丈夫か?」
そう聞くと
「あなたが勉強見てくれるので大丈夫です」
そう答えた。
えっ? 俺が引き続き教えることになっているの? あの空気苦手なのだけどなぁと首を傾げた・・・・。
一先ず仮で事務所入りした心に、いつでも正式に入所して良いからと社長とリルも歓迎する。
それからの心の演技力は目を見張るほど上達していき千秋楽の頃には劇団員に引けを取らない演技を披露していた。
全6回の舞台公演も無事終わり最後の打ち上げは大いに盛り上がった、場所は座敷のある居酒屋、劇団員の中には家族、お子さんを連れてきている方もいる。
子供の多くは臣になついて楽しそうにおしゃべりしている、心は成長速度の事もあり監督や団長に次回作も出演しないかと誘われていた。
全員で30名程いるのでとても賑やかだ、俺は一番隅にいて皆が楽しんでいる顔を見て嬉しく思う、多くの笑顔を見ていると自然とこちらも笑顔になり楽しくなっていく、こういう席はとても好きだ、すると心がウーロン茶を片手に俺の隣に座って来た、お疲れさまと言うと、
「こちらこそ三か月間ありがとうございました」
「今日の芝居が一番良かったよ、毎回上達していて正直驚いた」
「監督や団員の方々にも同じこと言われました、臣ちゃんと・・・・、臣ちゃんが練習に付き合ってくれたおかげです」
「上達の速さは君の実力だよ」
「・・・・私、今までやりたいことって特になくて、でも、お芝居・・・・とても楽しかったです・・・・」
「休憩時間も忘れて夢中で練習していたよな」
「はい、家でも台本読んで・・いつの間にか自分以外の役のセリフも全部覚えていました」
「楽しいと思えること、寝食忘れてのめり込めるものを見つけることが出来た人は幸せだと思うぜ」
「臣ちゃんと・・・・・・ん~、あなたのおかげかもですね」
「俺は大して何もしてないよ」
そう言うと何故かちょいムッとした顔をする心。
「君は将来したいこととかあるの?」
「いえ、特には、でもこの3か月間は本当に楽しかったな、また機会があればお芝居してみたいかも・・・・」
「大切なのは、自分のしたいことを自分で知っていることだよ」
カバの谷に紛れ込んだ鼻の尖った旅人が言っていたセリフを使わせてもらった、心はそうですね、と笑顔と言葉を残し席を離れた。
大いに盛り上がりの中、打ち上げは終えた、これから2次会に行く人もいるが、俺たちはここでその場を離れた。
事務所のある
「私を事務所に入れてくれませんか?」
真剣な顔で言ってきた。
「え~! 心お姉ちゃん本当?」と喜ぶ臣。
「社長さんも無理なく自分のペースで活動していいと言ってくれましたし、弟のリルさんもとても優しく接してくれるのでお世話になりたいと思います」
俺は嬉しくなり、良いんじゃないか、社長には俺から言っておくよと返事する。
心はコホンと咳払いして、
「改めまして、
「
心は小さな唇を尖らせ、キチンと自己紹介してくれと言った顔をして、下の名前は何というのですか? と聞いてくる。
俺が答える前に
「かえるだよ!」
臣が言う。
心はえ? って顔をして、
「かえるってあだ名とかではなかったのですか?」
「本名だよ、
そう言うと臣が俺の後ろで、
「かえるかえる~、ゲコゲコ~」
と言うので、心は顔を真っ赤にしてプッっと吹き出し顔を斜め後ろに向き肩を震わせている、俺はいいさ、慣れていると思っていると、
「かえるかえる~」
臣がひつこく笑わせている、とうとう心も我慢できずに声を出して笑ってしまう、俺はいい加減ムカついてきた。
「待たんか! このクソガキ~」
走り回る臣を追いかけながら横目で心を見る、初めて間近で見る心の笑顔は環ちゃんそっくりでドキッとさせられた。
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