第13話 心こころがわり、大嫌いから・・・・(中編)
「臣ちゃんを連れて来て下さい」
冷たい視線をした美少女は素直に聞いてくれない、ただただ急用で時間がない事を伝えるので必死になること数分。
「臣は舞台裏から出て来られない、頼むから来てくれよ」
・・・・・・・・・・・・。
いやそうな顔はするが理解してくれて舞台裏までついて来てくれた。
臣は笑顔で駆け足のまま、
「心おねぇちゃん、来てくれてありがとう~」
勢いよく抱き着く。
「どうかしたの?」
「私のお姉ちゃん役で出て、お願い!」
心は頭にクエスチョンマークを付けている。
姉役の子が急遽事故で舞台に立てないから代わりに出てくれと監督と団長が心に説明をする。
「いえいえ、舞台に出るなんて絶対無理ですよ、もう始まっちゃうし、私は無理です!」
当然の返答が返ってくる。
「この役は最初と最後に少し出るだけで、セリフは姉妹の日常会話だから大丈夫、問題ないよ、心お姉ちゃんなら出来る!」
平然と臣が無茶なお願いをしている。
「え~~~~~~」
「かえるもしっかりサポートしてくれるから問題ないよ」
は? サポート? 何するの? と思った、監督と団員全員が頭を下げ心にお願いする、半泣きになりながらがしぶしぶ美少女は引き受けてくれた。
本番のブザーが鳴り幕が開く、舞台袖で臣が心に大まかなセリフを伝える、基本姉妹の日常会話なので重要なセリフだけ言えばあとは適当に繋げば良いなど言っている。
一部会場がざわつく、心と一緒に来ていた友達や知り合いが心が舞台に出ているので驚いている。
2回出番がある内の一回目は何とかやり終え舞台袖に履ける、臣はそこそこ出番があるので自分の事で頭がいっぱいのようだ。
心はおろおろしているので俺がフォローし一緒に後半、2回目の出番のセリフ読みを付き合う、
「大丈夫だ、君ならやれる」
と勇気づけ、2回目の出番に背中を押して送りだした。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ。
会場に大きな拍手が鳴り響く、初日を無事終えることが出来た、出来栄えはこの拍手が物語っているよ。
俺はいち早く会場ロビーに出て去年までリルや臣がお世話になった方々、関係者様に挨拶をする。
すると臣の両親が出てきた、お父さんは、
「良かったよ」
と一言だけ残し帰っていく、お母さんは、今回の舞台楽しみにしていたのよ、お父さんも終始笑顔で楽しそうだったわ、と両親ともども満足したようだった、お母さんの膨らんだお腹を見てひょっとしておめでたですか? と尋ねると、
「いやだ恥ずかしい、お父さんが雨木川さんに娘が取られたと言ってね、子供は一人で良いと言っていたけどもう一人頑張ってみたの」
それじゃあ臣の事よろしくお願いしますと言って、お母さんは出口で待っているお父さんと一緒に会場外に出ていった。
お客様が全員引いたのを見て舞台に戻る、監督、団長、劇団メンバーは一先ず無事終わったと胸をなでおろしていた。
臣と心も満足げな顔をしている、皆でそのまま打ち上げ場所へ向かう、心は自分も行ってもいいものかと戸惑っていたが是非参加してくれてと歓迎されていた。
近場の喫茶店で劇団員はアルコール入り、臣と心はジュースを持って乾杯した、打ち上げの席で賑やかムードの中監督と団長が心に頭を下げている、
「6月まで残り5回引き続き姉役として出てくれないかな」
心は困った顔をしている、臣もまた一緒に舞台に立ちたいと言っているが心は素直にうんとは言わない。
中学3年生になったばかりとはいえ受験生だし勉強もしないといけない、塾も通っているので参加は厳しいようだ。
「勉強はかえるに見てもらえばいいよ」
臣が無責任に言う。
え~、この人、大丈夫なの~って感じの眼で俺を見る心、監督、団員全員で頼み込み、取り合えず2回目、再来週の舞台は出てくれるとの事で落ち着いた。
そして土曜日になり、稽古場を借りて臣と心とでセリフの掛け合いの練習をしている、おれがちょいちょい立ち位置や体の向き、表情など指摘する。
心は一度指摘したことは直ぐに覚えどんどん成長していく、お芝居の経験はあるのか聞いてみたが全くないとの事、素人目から見ても成長の速さは凄い物を感じるので本格的に芝居を続けて欲しいなと思ったよ。
稽古が終わり事務所へ、お客様用のソファーで臣が宿題、心は苦手な数学の予習をしている、社長が入ってきてその子が心君かと名刺を渡し挨拶している、美少女は立ち上がり会釈する、社長は気にしないで続けてくれとジェスチャーをして奥にある自分の机に向かった。
臣に勉強を教えているとう~ん、う~んと心が声を出している、計算問題が解けずつまづいているようなので見てやる、すると、
「あ~、なるほど」
素早く理解し、もう大丈夫です、と問題を解き始めた、臣の方に振り返り見ているとまた、う~ん、う~んと唸っている、どこがわからないの? と尋ねると無言でペン先でトントントンと問題を指す、ここはだなぁと教えると、
「あ~、なるほど、もう大丈夫です」
と先ほどと同じようなことを言う、再度臣の方を振り返り勉強を教えているとまたまたう~ん、う~んと唸り声が聞こえる、こいつは素直に教えて下さいと言えんのかと思ったが俺も負い目があったので淡々と教えてあげる。
このやり取り何回繰り返しただろうか、最後に心がボソッと
「わかりやすい」
そう言ったので役に立ててよかったと思ったよ。
ここでも幼馴染を思い出した、中学、高校時代は俺が環ちゃんに勉強を教えてもらっていたので、なんだか立場が逆転したみたいで不思議な感じがした。
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