第12話 心こころがわり、大嫌いから・・・・(前編)

 あれは2年前、臣が小学3年生で、テレビ番組、教えてリル先生♡で人気に火が付いていた、

臣のブログには環ちゃん人形を抱いた画像をアップしていて、それを見たファンが、


 「臣ちゃんの持ってる人形が欲しい」

 「どこで売ってる?」

 「何のキャラ?」


 と噂がたち一個1万円と高額ながらも熱狂的なファンは欲しがり売れに売れた、そんなこともあり一人一個、同じ人は購入不可と制限までしたくらいだ。


 そんな時、臣が近所に住む年上の友達が環ちゃん人形を欲しいとの事なので、ちょうど500個目を持って待ち合わせの駅前に来ていた。


 そっか、もう半分売れたんだ、ふと18歳の時に見たあの長い夢を思い出していたら、


 「おまたせっ」


 と聞こえたので振り向くと臣が立っていた、一緒にいるセーラー服を着た女の子を見て一瞬時が止まった。


 「環ちゃん・・・・」



 自然と声がでる、中学生時代の環ちゃん、幼馴染が目の前にいる、俺は彼女の両肩を両手で掴みじっと見つめる、良~く見ると似ているが別人だとわかる、俺は直ぐ手を放し、


 「ごめん」

 と、謝罪する。


 彼女は怯えている、臣は終始あっけにとられていたが我に返り、どうしたの? と聞いてくるが俺は答えることが出来なかった。


 セーラー服の女の子は怯え距離を取っている、臣がいてくれてよかった、持ってきた環ちゃん人形を彼女に受け渡し、彼女から代金を受け取り俺に渡す、二人が帰っていくのを呆然と見送ることしか出来ないでいた。



 事務所でスケジュール管理をしていたら帰って来た臣が怒って俺に言い寄ってきた。



 「かえる! さっきの何だったの? 心お姉ちゃん怖がっていたよ!」



 すまなかったというだけで特に理由は言わなかった、言う必要はないと思ったし、面倒に感じたからだ。



 「幾らお姉ちゃんが魅力あるからってあんな風に近づいたら駄目だよ、もしどこかで会うようなことがあったらしっかり誤ってよね!」


 これ以上の説教は聞きたくないのでわかったよ、と言って事務所を出た、俺と入れかわりにリルが入ってくる、よう、とだけあいさつを交わす。


 「ねぇ~聞いて、リル先生、かえるが・・・・」


 臣がリルに何か言っている声が聞こえたが気にせず外に出る、先ほどの臣が連れてきたセーラー服の女の子、心っていうのか・・・・。


 本当に幼馴染の水ノ森環みずのもりたまきの中学時代そのものに見えた、外の風に当たりながら久しぶりに幼馴染をじっくり思い出す、俺と心が再開したのはこの一年以上先のこととなる。





 テレビ番組、教えてリル先生♡が人気絶頂の内に終了になった、リルも臣も落ち込んでると思ったがリルはやりたいことがあるので時間が空いてちょうどいいと言っているし、臣も番組ディレクターから舞台の話を貰い、舞台監督とあいさつ後4、5、6月の3か月間月2回、全6回の舞台を踏むことになった。


 3月にリル先生が終了で4月には直ぐ舞台が決まったのである意味運がいい。



 臣も4年生になっていた、舞台のためのレッスンをこなし本番前日、劇団員と臣を入れて11名でゲネプロ(本番さながらの通し稽古)を無事終え、明日を迎える準備は整った。



 本番当日。



 お客は300人入る会場で初日は満員御礼! 監督、団長共に張り切っていた、本番二時間前、9名の劇団員と臣がいい緊張感で待ちわびている、ん? あれ? 9名、確か団員は10名じゃなかったっけ? すると団長のスマホから着信が鳴った、電話に出て話している、団長の顔は青ざめているように見えた、電話を切り皆に話しの内容を伝える。


 臣の姉役の子が会場に来る前に交通事故にあって怪我をして、どうしても舞台に立つことが出来ないとの事だ、代役などいないし、急遽どうするか考えているが打開策がみえない、本番も一時間前でぞろぞろとお客が入ってくる、団員全員困惑している、万事休すとはこんな時に使うのだろうか、リルがいれば姉役だし上手く出来そうな気がするがあいにく今日は仕事でいない、 俺が試行錯誤していると臣が何やら団長と話している、そして俺に、


 「私は舞台裏から出られないから悪いけどあの人連れてきて!」


 と客席真ん中前列に座っている女の子を指さした、俺は固まった、その子は以前臣が連れてきたセーラー服の女の子だったからだ、そう、幼馴染の水ノ森環みずのもりたまきにそっくりな心という名の女の子だ、その子を連れてきてという、俺を見たら警戒するだろうと臣に言うが、


 「リル先生と私でちゃんと謝ったから大丈夫、急いで!」


 との事だ、そう言えば、リルが代わりに謝っておいただの言っていたな、どんなふうに言ったのか気になったが・・・・。



 臣がせかし背中を押すので戸惑いながらも俺は1年ぶりに会う心に近づいた、心が俺に気付いて眉間にしわを寄せている、俺はすぐさま、


 「臣が君に舞台裏まで来てくれと言っている、一緒に来てくれないか!」


 明らかに警戒しているのがわかる。


 「頼む、急ぎなんだ!」


 心は怪訝な顔をして、冷たい、そう槍のような視線を向けてきた。

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