第6話 プリフォーとキャンプ合宿へ

 事務所の中、俺が返事もせずに黙っているのでもう一度言うぞと言った後で再び同じセリフを社長は口にした。



 「千個の環ちゃん人形を完売した時の大変さを思い出せば今回の事なんて大したことなかろう」



 確かにあれはとても大変だった・・・・、テレビ番組『教えてリル先生♡』でリルが使用する腹話術の人形を環ちゃんにすると決まっているから知名度が上がり瞬く間に売れると豪語していたのに突然番組側が違う人形で行くことになり環ちゃんは使えないことから、何のキャラクターともわからない物を売る羽目になった、しかも高さ30センチの人形に一個一万円!


 こんな高額で買う人いないだろうと言っても社長は元手がかかっている、この人形は日本製で全てハンドメイド、麻、綿、絹しか使っていない自然繊維のみで作っている、出荷前に千個全て神社に祈願するのでお守りにもなるように作っている、腹掛けは全てリルが裁断から縫製、さらに腹掛けの裏にはシリアルナンバーと俺のサインを刺繍している、将来希少価値の付くこと間違いないアイテムで、この値段でも安いくらいだ、と言い張る。



 この手の品は疎いので調べてみたらアクションフィギュアに2万も3万もするものが普通に売られているようなので1万円は妥当なのか? とも思ったけど・・・・、いやいや高いよな~。



 本当に全部売り切るのは大変だったと頭をよぎる、特に最初の100個迄は、だがこの環ちゃん人形から全ては始まったんだなとしみじみ思う、何せこの人形が無ければ臣や心に出会うことはなかっただろうし、ましてやプリフォーが結成するなんてありえなかっただろう・・・・。



 俺が考え事をしていると社長がまたわけのわからないことを言う。



 「だから今回も成功させろ、というわけで還流よ、プリフォーを連れて二泊三日のキャンプに行け!」


 は? 何故? という顔をする俺に社長は、



 「あいつらは個々の魅力は素晴らしい物があるが四人になることでその魅力が半減している、一重に上手く団結が出来ておらんのだ、皆で自然に触れ寝食を共にすることで何か変化するだろう、まったく変化が感じられないようなら解散も考えている、還流お前次第だぞ」



 え~、マジかよ、あいつらの存続は俺しだいなの?



 「では私には私の仕事がある、しばらく留守にするのでこの件はお前に任せた、早めに四人に連絡を取ってキャンプ合宿に行ってこい、成功を祈る」



 そう言うとそそくさと事務所を出て行った、俺はあっけにとられたね。


 幸い5月に長い休みがあるのでそこを利用してキャンプ合宿を決行しようと考えた、直ぐにリーダーの須賀彗夏に電話する、皆まだ近場にあるファミレスにいるとの事だったので、俺も合流することにした。


 ファミレス内、空いている席は少なく若い人が中心に賑わっている、プリフォーはその中でも一際目立っているように見えた。


 「おまたせ」


 4人掛けの席で正面に彗夏と伊莉愛、俺は心と臣が座っている席に詰めて座らせてもらう。


 「かえる遅いぞ!」

 と臣が言う。


 俺

 「お前達何を話していたんだ?」


 彗夏

 「新曲についてですよ、今度はもっと売れないとなぁって」


 心 

 「自分とメンバーの長所短所を明確に、客観的に分析していました」

 

 伊莉愛 

 「社長が結構自由にさせてくれている分、結果出さないとねって話してました~」


 俺 

 「何かいい案が浮かんだのか?」


 臣

 「ぜ~んぜん、かえるは良い案ある?」


 俺

 「お前たちは個々の魅力は素晴らしい物があるが四人になることでその魅力が半減している、団結力が欠けているんだ」


 社長が言っていたことをさも自分の言葉のように伝える。


 「皆で自然に触れ寝食を共にすることで何か変化するだろうから5月の休みにキャンプ合宿をしようと思う」


 臣 

 「え~、キャンプ、行く行く!」


 心 

 「良いと思います、スケジュール調整しますね」


 伊莉愛 

 「この合宿で弱点を克服出来たらいいよね~」


 彗夏 

 「よし、合宿までの間、心の提案した自分とメンバーの長所短所を明確化し、合宿中に発表して長所は伸ばす、短所は克服すように努力しよう」


 四人が顔を揃えて頷く。


 俺はこの娘達はこの娘達で色々と悩み考えているのだなと思ったよ。




 それから一週間、合宿キャンプ当日、車で2時間の場所にあるキャンプ場だ、集合時間は朝七時に決まった。事務所前に社長が八人乗りのワンボックスカーを準備してくれていたので荷物を入れても余裕で乗れる、後は四人が来るのを待つだけだ。


 臣と心がそろってやってきた、臣が環ちゃん人形を持っている、旅行に行く時など必ず持っていくという、俺の直ぐ隣、助手席に乗せシートベルトを着けて座らせている、臣と心は運転席の後ろの席、彗夏、伊莉愛は一番後ろの席に決まった。


 そうこうしていると伊莉愛が到着し、最後に彗夏がパンをくわえて走ってくる、ぎりぎりセーフと笑顔を見せる、確かにちょうど7時だ、皆車に乗り込んだのでキャンプ場へと車を走り出す。


 車内では4人が課題にしていたそれぞれの長所短所を言い合っている、俺は運転中、助手席に置いてある環ちゃん人形を見ながら臣と出会った4年前の事を思い出していた。

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