第5話 還流の決意


 ここはファミレス、の目の前には宝城キルトが昨日見せてもらった大きな人形を持って座っている、ランチタイムも終わった時間帯なのでお客もチラホラいる程度だ、静かでいい。


 「何かあったら連絡しろとは言ったがまさか昨日の今日とはな、人形を持って来てくれと言っていたが昨日はこの魅力がわからないようだったが一晩寝て素晴らしさがわかったのか?」


 許可をもらってその人形に触れさせてもらう。


 「そうだ、間違いない、昨日見た環ちゃんの姿はこの人形そのものだ・・・・」


 いくつか宝城キルトに質問する。


 「このキャラクターは何か元ネタのようなものはあるのですか?」


 キルトは瞑想中に閃いた、インスピレーションによって生まれたキャラだといった。



 「名前はあるのですか?」



 それに関してはまだ閃いてなく考え中との事だ、昨日は興味を示さなかったものにここまで疑問を持ったことを不思議に思ったようで逆に質問される、昨日見た夢の話をかいつまんで説明した、正面に座るイケメンは黙って最後まで話を聞いてくれた。



 「なるほどな、死んだ彼女がこのぬいぐるみの姿で現れたと・・、そして千人の笑顔を作る使命が・・、ねぇ・・・・・」



 キルトはしばらく間をおいて。



 「偶然か必然かこのぬいぐるみを今千個製造している、お前、これを全部売れ」


 一体この人が何を言っているのか直ぐには理解できないでいた、五秒くらい間があっただろうか、


 「は? 今なんて言いました?」


 「だからこのぬいぐるみ・・そうだ環ちゃんと名づけよう、うん、この環ちゃん人形を千個完売させるんだよ」



 「え~、千個売る! って環ちゃん!?」



 「そうだ、たまきはかんとも読む、この字は輪の形、めぐる、めぐらす、まわりまわる、等の意味を持つ素晴らしい名だ、この腹掛け中央に環の文字を入れようではないか!」


 胸ポケットから口ひげを取り出し昨日の様に鼻の下にピタリと付け、扇子をバッと広げ仰ぎ、



 「はーはっはっはっはっ~」



 宝城キルトは立ち上がって周りを気にせずに高笑いをする。


 「これはお前の使命なのだ、昨日弟のリルと数年ぶりに出会ったのも、俺と出会ったのも、夢の中で人形の環ちゃんと出会ったのも、これから俺と一緒にこの世界でのし上がっていくのも必然なのだ、腹をくくれ雨木川還流、成功へのロードマップは用意してある、後は進むだけだ!」



 扇子を閉じスッと椅子に腰をおろしてから静かに。



 「この愛くるしい環ちゃん人形を千人に届けることは自然に笑顔を届けることに繋がる、君の彼女が成仏出来るんじゃないのかね」


 と、先ほどとは打って変わって声のトーンを落として言った。


  正直成仏だの何だのよくわからない、でも生きる目的の無かった俺に道を示してくれていることはわかる、目に映るぬいぐるみを見て、


 「環ちゃん・・・・」


 と呟いた後、


 「どうぞよろしくお願いします」


 そう言って手を差し伸べた、キルトは口角を上げ力強く握り返してくる、俺が宝城キルトの元で働く事が決まった瞬間であった。

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