第3話 宝城キルト登場
「そっか、突然の涙の理由はそういう事だったんだね」
ベンチに腰掛け右隣に座っている友人は話を聞いてくれた、環ちゃんがこの世にいないことを伝えると俺と同じように悲しんでくれた、リルは小学校の5年生の時に転向したので幼い時の俺と環ちゃんの事しかしらない、でもクラスが違う時もあったけどリルが転向するまでは良く一緒に行動していたし、何より昔の環ちゃんを知っていることが嬉しくてたまらない、俺たちは今思えば他愛もない事だが当時の楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、その他多くの事を語り合った、本当に久しぶりに表情豊かに話したよ、今の俺にはリルの存在がとてもありがたかった。
「しかし大道芸っていうの? 腹話術凄いよな、老若男女や動物の鳴き声なんかも出して、ボイスチェンジャーでも使っているのか?」
「まさか、全部咽を調整して出しているよ」
目の前で色んな声を出すので驚かされた。
リルの両親は早くに亡くなっていて年の離れたお兄さんが小さい時から面倒をみていた、そういう意味では彼もつらいことが多かったんだろうなと想像つく。
なんでも今はリルの特技を生かしてメディアに売り込んでいるそうだ、しかも近いうちに腹話術を使ってメインでテレビ番組を持つとの事、お兄さんが芸能事務所に関係者がいるとの事で色々動いてくれたらしい、俺も大いに喜んだ、絶対録画もしてみようと思う。
二人の話で盛り上がっている時に遠くから長身でスリム、金髪ロングヘアーで黒いスーツで赤シャツに金色のネクタイ、片手に大きな紙袋を抱えたイケメン、いかにもホスト風情の男がこちらに近づいてくる。
「兄ちゃん!」
リルがイケメンに向かって声をかける、びっくりした、イケメンは軽く会釈をしリルの頭をなでる、リルが俺の事を紹介する。
「こちら僕の小学校時代の友人で
どうもと頭を下げる、
「で、こちらが宝城キルト、僕の兄ちゃん」
弟をよろしくと手を差し伸べてくる、それに握手で答える。
リルとお兄さんは楽しそうに話している、兄弟というより親子に見える、後で知ったことだが年の差が一回もあるのでそう見えてもおかしくはないと思った。
年もそうだが身長差がありすぎる、リルは160㎝でお兄さんは185㎝位、並ぶとよくわかる、ちなみに俺は175㎝だ。
こんなクールでイケメンなお兄さんがいてリルは心強いだろうなと思い、少しうらやましくも感じた、リルとお兄さんの関係を見ていいなぁと思っているとお兄さんはポケットから口ひげを取り出し自分の鼻の下につけて、持っていた大きな紙袋からぬいぐるみを取り出した。
「じゃじゃじゃ~ん! 見よ我が弟よ、ついに出来たぞ! 近い将来一家に一つは置いてあるだろう愛くるしいキャラクターの人形が!」
え~~~! さっき迄のクールな感じとは全然違う別人のようなお兄さんが60㎝くらいのバカでかいで妙なぬいぐるみをもって叫んでいる!
リルもリルで、うわー可愛い~って言いながらぬいぐるみにハグしているし、何だこの兄弟と正直心の中で思い切り突っ込んでしまった。
周りにいる方々もなんかこっち見ているし正直他人のふりしてこの場から去ろうと思ったよ。
「還流と言ったな、君はこのキャラクターを見てどう思う、素直な感想を述べてみよ」
はぁ、と息が漏れる、お兄さんが持っている人形の特徴は白いカエルの様な姿で二足歩行、尻尾があり頭と背中に水色の毛が生えているキャラクターだ。
ん~と言いながら沈黙は続いた。
「お前にはこのキャラの愛くるしさがわからんのか、この色白でパッチリとしたお目目、金太郎が着ているようなおべべ、さらさらヘヤーが美しいだろ」
正直よくわからない。
「何よりこの絶妙な配色の黄金比がわかるか!」
熱く語るお兄さん、となりでリルもうんうん頷いている。
「白をベースに赤、青、黄色をバランスよくちりばめる、この配色バランスが大切なのだよ! 世界的国民キャラのド〇え〇んやガ○○ムもそうであろうが」
ハア~と言うしかなかった、その後もお兄さんは熱く語り続けた、日も暮れてきた頃、名刺を取り出し、
「還流よ、何かあったら連絡しろ」
と言って、リルと二人夕焼けが残っているうちに帰っていった。
俺は家に帰り着くとなんだかとても疲れて直ぐにベッドに倒れこんだ、そのままいつの間にか眠ってしまった・・・・。
人は夢を見る、夢は起きて直ぐ忘れるように脳がインプットしているようだ、今まで見た夢は覚えてはいない、でも今夜見る夢は生涯忘れることはなかった、今その夢の入り口まで来ている・・・・。
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